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第9話 2つの情報 レティシア視点(1)
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「尾行作業、感謝いたします。……セルジュの相手は、ルレアル男爵家のエレーヌだったか」
リステルズ家の御者から報告を受けたお兄様は、ハーレンスさんに対して一礼。応接室にいる私、お父様とお母様も感謝を示し、ハーレンスさんの退室後に4人で顔を見合わせました。
「あの男の記憶喪失は、やはり嘘。心変わりをしていたのだな……!」
「レティシアとの交際も婚約も、アイツから申し込んでいます。そんな理由での解消はただでは済まず、父親と母親が他の相手との交際なんて認めるはずがない。そこで全てをリセットして、堂々と行えるようにしたのでしょうね」
「……酷い話、だわ……。けれどクロエ・ファレティーラの目的が分からないわね……。なんのために協力をしているのかしら……?」
「そちらはお兄様が、移動中に推測してくださっています。恐らくお二方は、お互いの目的を果たす為に手を結んでいたものと思われます」
ファレティーラ様はこれまで何度も、在学中も卒業後も、お兄様に近づいていた。その際はほぼ毎回、セルジュ様が持ち上げていたそうです。
私がセルジュ様の言い分を信用する一因となった、『よく2人でお喋りをしている』。思い返せばその時期はなぜか、外で――人目につく場所で、話しをしたがっていたそうです。
それらは個別だと特には何も感じません。お兄様は『格上だから立てている』と感じられていて、私は『偶々そこでお喋りをしているだけ』と感じていました。
ですがあの光景を知った上で見直せば、その印象は大きく変わります。ドミノ倒しのように、隠れていたものが一気に明らかになります。
セルジュ様は、ファレティーラ様の印象を上げていた。私が失恋するように動きながら、支援をしていた。
ファレティーラ様は、セルジュ様の言い分を信じやすくしていた。アプローチをしながら、セルジュ様の援護をしていた。
それらの行動はすべて、計算されたものだったのです。
「今回も、それの一環。恐らくクロエ・ファレティーラへの支援は続いていて、その見返りに動いていたのだと思います」
「先日もお兄様とダンスを踊るなど、そちらに関係するアクションがお二方にはあったようです。ですのでそちらが真実なのだと、確信しております」
「……そうだな。わたし達もそう感じているよ」
お父様とお母様は首肯されて、同時に自嘲気味に大息を吐かれました。
「その頃から悪心があったと、見抜く事ができなかった。情けない話だよ」
「わたくし達は倍近くの時を生きているというのに……。情けないわ……」
「俺は何年間も傍にいたにもかかわらず、見抜けませんでした。最も情けないのは俺でして、ここまでは完敗です」
お兄様は即座にお父様達の罪悪感を薄めてくださり、5文字を強調しつつ白い犬歯を覗かせました。
? お兄様……?
リステルズ家の御者から報告を受けたお兄様は、ハーレンスさんに対して一礼。応接室にいる私、お父様とお母様も感謝を示し、ハーレンスさんの退室後に4人で顔を見合わせました。
「あの男の記憶喪失は、やはり嘘。心変わりをしていたのだな……!」
「レティシアとの交際も婚約も、アイツから申し込んでいます。そんな理由での解消はただでは済まず、父親と母親が他の相手との交際なんて認めるはずがない。そこで全てをリセットして、堂々と行えるようにしたのでしょうね」
「……酷い話、だわ……。けれどクロエ・ファレティーラの目的が分からないわね……。なんのために協力をしているのかしら……?」
「そちらはお兄様が、移動中に推測してくださっています。恐らくお二方は、お互いの目的を果たす為に手を結んでいたものと思われます」
ファレティーラ様はこれまで何度も、在学中も卒業後も、お兄様に近づいていた。その際はほぼ毎回、セルジュ様が持ち上げていたそうです。
私がセルジュ様の言い分を信用する一因となった、『よく2人でお喋りをしている』。思い返せばその時期はなぜか、外で――人目につく場所で、話しをしたがっていたそうです。
それらは個別だと特には何も感じません。お兄様は『格上だから立てている』と感じられていて、私は『偶々そこでお喋りをしているだけ』と感じていました。
ですがあの光景を知った上で見直せば、その印象は大きく変わります。ドミノ倒しのように、隠れていたものが一気に明らかになります。
セルジュ様は、ファレティーラ様の印象を上げていた。私が失恋するように動きながら、支援をしていた。
ファレティーラ様は、セルジュ様の言い分を信じやすくしていた。アプローチをしながら、セルジュ様の援護をしていた。
それらの行動はすべて、計算されたものだったのです。
「今回も、それの一環。恐らくクロエ・ファレティーラへの支援は続いていて、その見返りに動いていたのだと思います」
「先日もお兄様とダンスを踊るなど、そちらに関係するアクションがお二方にはあったようです。ですのでそちらが真実なのだと、確信しております」
「……そうだな。わたし達もそう感じているよ」
お父様とお母様は首肯されて、同時に自嘲気味に大息を吐かれました。
「その頃から悪心があったと、見抜く事ができなかった。情けない話だよ」
「わたくし達は倍近くの時を生きているというのに……。情けないわ……」
「俺は何年間も傍にいたにもかかわらず、見抜けませんでした。最も情けないのは俺でして、ここまでは完敗です」
お兄様は即座にお父様達の罪悪感を薄めてくださり、5文字を強調しつつ白い犬歯を覗かせました。
? お兄様……?
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