上 下
14 / 34

第8話 想う人が協力者だったら……? レティシア視点(1)

しおりを挟む
「こんなことに、なってしまうなんて……。ごめんなさい、お兄様……」

 声が自然と震え、私は俯き肩を窄めます。
 あの時セルジュ様を怪しいと言わなければ、今回の尾行は発生していませんでした。こんな形で、想う方のお屋敷を目にすることはありませんでした。

 何かしらの裏がある方だと、分かってよかった。
 お兄様が、こういった方と関係を結ばずに済んでよかった。

 そういった安堵の気持ちはあります。ですが……。

 形がどうであれ、想っていた人に幻滅するのは辛いこと。
 私のせいで、お兄様が傷ついてしまった。

 そういった気持ちが湧いてきて、申し訳ないのです。
 よかった、でも、よくなかった。複雑な思いが頭の中で交錯し、自然と顔は下を向いてしまいます。

「……もしかすると私がセルジュ様に応えなければ、こんなことになっていなかったかもしれません……。ファレティーラ様がお手を貸すことも、なかったのかもしれません……。滅茶苦茶に、してしまいました……」
「滅茶苦茶? レティシアは、さっきから何を言っているんだ? キツネ男のあとをつけて、更に怪しい協力者を特定できた。プラスしかないじゃないか」

 お兄様は眉を寄せながら片膝を突き、当惑しながら私の顔を見上げてくださります。
 その様子には少しも、嘘や誤魔化しはなくって……。オディロンお兄様は本当に、戸惑われているようです。

「クロエ・ファレティーラがセルジュを支援していた、大きな前進だろ? レティシアが言っていること、考えていることを理解できないんだよ。俺に詳しく教えてくれ」
「お、お兄様……? は、はい……っ。分かりました……っ」

 ご自分の恋心を隠し、お気を遣ってくださっているようは映りません。ですので、頭の中にあるものを、全部言葉にすることにしました。

「私があのように口にした理由。それは、安堵と申し訳なさがあったからなのです」

 何かがある方だと気付けて、ホッとしている点などなど。
 幻滅してしまうのは、どんな理由があっても辛いと感じている点などなど。
 良い点と悪い点を包み隠さずお伝えし、そうすると――。そうすると……っ。お兄様の口から、信じられない言葉が返ってきたのでした。

「待ってくれっ、どうしてそうなっているんだ!? クロエ・ファレティーラを愛したことなんて、一度もないぞっ」

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

酒の席での戯言ですのよ。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:26,979pt お気に入り:592

私が消えた後のこと

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,869pt お気に入り:628

婚約者が愛していたのは、わたしじゃない方の幼馴染でした

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:305pt お気に入り:1,220

私を捨てた元婚約者が、一年後にプロポーズをしてきました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:2,120

処理中です...