一度もクリアできなかった乙女ゲームの世界に転生しました

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
49 / 49

エピローグ ストーリーのその先へ アデライド視点

しおりを挟む
「今なら分かります。第一の敵ジル・ボルール、第二の敵ネリー・アメロルスとアンリ・フォムイエ、第三の敵トビ・ザラローズ。貴方様は彼らを救おうとされていましたよね?」
「は、はい。あの人達は、シナリオに操られてしまっていただけですから」

 誰一人として、自身の敵意で動いてはいない。そうするのは当たり前、むしろそうしないといけない。

「そんな、思い遣り。纏う穏やかな雰囲気。表情、仕草、言葉から伝わる、温もり。優しさ。それらに僕は、惹かれた――ずっと惹かれていたんです」

 エリク様はご自身の胸元に右手を添え、柔らかく口元を緩められた。

「ですのでもっと貴方様を知りたいと思っていますし、もっと僕を知って欲しいとも思っています」

 ゲームの『キャラクター』のエリクだけじゃなくて、『人間』のエリクも知って欲しい。自分の意思で動くエリクを見て欲しい。
 そうしてその結果、今までのように想ってもらえたら幸せ。
 そう、仰った。

「……里村七海様。僕のお願いを、聞いてはいただけないでしょうか?」

 真っすぐわたしの瞳を見つめながらの、問いかけ。
 そちらに対してわたしは、

「はいっ! 是非そうさせてください!」

 即答、させていただいた。

「わたしも、もっと貴方様を知りたいと思っていたんです」

『なにか、悩み事があるみたいだね?』

 あの時も、他の時も。気遣いながら案じてくださっていた。
 ソレはゲームにはない言葉で、エリク様の『人』な部分が滲みだして出たもの。
 キャラクターとしてだけではなく、人間としても大好きになっていて。そんな人だから、同じように色んな部分を知りたいと感じていました。

「エリク様とわたしの関係は、シナリオによって生まれたものです。でも、そうじゃなくて。お互いの意思でも、関係を築いていきたいと思っています」
「……ありがとうございます」

 ゲームのスチルでも、見たことなかった。エリク様は本当に幸せそうに頬を緩め、片膝をついて右手を差し出された。

「里村七海様、これからもよろしくお願い致します。ここからは、僕達が作る時間を中を進んでいきましょう」
「はい。……エリク様、これからもよろしくお願い致します。ここからはわたし達が作る時間の中を進んでいきましょう」

 差し出された手を取らせていただいて、同じように笑みをお返しする。
 そうしてわたし達は――


 キラキラと輝く満月の下で、オリジナルの人生を歩み始めたのでした。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ

弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は、たった今をもって解消させてもらう!!』  国のこれからを背負う若者たちが学院を卒業することを祝って開かれた舞踏会の日、めでたい筈のその席に響いた第一皇子の声を聞いた瞬間、私の頭にこの場面と全く同じ“ゲーム”の場面が再生された。 これ、もしかしなくても前世でやり込んでた乙女ゲームの終盤最大の山場、“断罪イベント”って奴じゃないですか!?やり方間違ったら大惨事のやつ!!  しかし、私セレスティア・スチュアートは貧乏領地の伯爵令嬢。容姿も社交も慎ましく、趣味は手芸のみでゲームにも名前すら出てこないザ・モブ of the モブ!!  何でよりによってこのタイミングで記憶が戻ったのか謎だけど、とにかく主要キャラじゃなくてよかったぁ。……なんて安心して傍観者気取ってたら、ヒロインとメインヒーローからいきなり悪役令嬢がヒロインをいじめているのを知る目撃者としていきなり巻き込まれちゃった!? 更には、何でかメインヒーロー以外のイケメン達は悪役令嬢にぞっこんで私が彼等に睨まれる始末! しかも前世を思い出した反動で肝心の私の過去の記憶まで曖昧になっちゃって、どっちの言い分が正しいのか証言したくても出来なくなっちゃった! そんなわけで、私の記憶が戻り、ヒロイン達と悪役令嬢達とどちらが正しいのかハッキリするまで、私には逃げられないよう監視がつくことになったのですが……それでやって来たのが既に悪役令嬢に攻略され済みのイケメン騎士様でしかも私の初恋の相手って、神様……これモブに与える人生のキャパオーバーしてませんか?

今度こそ長生きしたいけど、憑依先が悪役令嬢とは聞いてませんっ!?

竹林 花奏(たけばやし かなで)
恋愛
公爵令嬢ベネット・ローガンは流行病により、14歳で亡くなってしまう。 眠りに付いた時に前世の記憶ーー坂本美緒としての生涯を思い出す。 前世での美緒は乙女ゲーム『マーガレット~光の神子と5人の騎士~』というのものにハマっており、中でも攻略対象者であるジャックフリートが好きだったが、彼女もとある理由により25歳という若さで亡くなる。 そして、全ての記憶を取り戻したベネットは、ゲーム内の悪役令嬢、リーリア・サルバトレーに憑依してしまう。 ゲームのシナリオ通り、リーリアの運命は破滅を進むのか──それとも、新たな運命を描くことが出来るのか!?

《メインストーリー》掃除屋ダストンと騎士団長《完結》

おもちのかたまり
恋愛
恋愛で100位以内になりました。 ありがとうございます! 王都には腕利きの掃除屋がいる。 掃除屋ダストン。彼女の手にかかれば、ごみ屋敷も新築のように輝きを取り戻す。 そんな掃除屋と、縁ができた騎士団長の話。 ※ヒロインは30代、パートナーは40代です。 ♥ありがとうございます!感想や応援いただけると、おまけのイチャイチャ小話が増えますので、よろしくお願いします!メインストーリー完結しました!今後おまけが増えますので、連載中になってます。

政略結婚で継母になった嫌われ令嬢です。ビジネスライクで行こうと思っていたのに、溺愛だなんてどうなっているのでしょうか?

石河 翠
恋愛
かつて日本人として暮らしていた記憶のある主人公。彼女は夫とも子どもともうまくいかず、散々な人生を送っていた。生まれ変わった世界でも家族とは縁が薄く、成人してそうそうに子持ちの訳あり男性の元に嫁がされる。 最初から期待なんてしない。家政婦どころか、ゲームのNPCとして淡々と過ごそうと思っていたところ、いつの間にか溺愛されていて……。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:22495556)をお借りしております。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

死にかけ令嬢の逆転

ぽんぽこ狸
恋愛
 難しい顔をしたお医者様に今年も余命一年と宣告され、私はその言葉にも慣れてしまい何も思わずに、彼を見送る。  部屋に戻ってきた侍女には、昨年も、一昨年も余命一年と判断されて死にかけているのにどうしてまだ生きているのかと問われて返す言葉も見つからない。  しかしそれでも、私は必死に生きていて将来を誓っている婚約者のアレクシスもいるし、仕事もしている。  だからこそ生きられるだけ生きなければと気持ちを切り替えた。  けれどもそんな矢先、アレクシスから呼び出され、私の体を理由に婚約破棄を言い渡される。すでに新しい相手は決まっているらしく、それは美しく健康な王女リオノーラだった。  彼女に勝てる要素が一つもない私はそのまま追い出され、実家からも見捨てられ、どうしようもない状況に心が折れかけていると、見覚えのある男性が現れ「私を手助けしたい」と言ったのだった。  こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。

マルフィル嬢の日々

夏千冬
恋愛
 第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。  それも王命により屋敷に軟禁状態。肉襦袢を着込んだ肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!  改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットを始めた。そして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することをスタート目標に、更生計画を開始する! ※こちらはアルファポリス様、小説家になろう様で投稿させて頂きました「婚約破棄から〜2年後〜からのおめでとう」の連載版です。タイトルは仮決定です。

モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?

狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?! 悪役令嬢だったらどうしよう〜!! ……あっ、ただのモブですか。 いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。 じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら 乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?

処理中です...