一度もクリアできなかった乙女ゲームの世界に転生しました

第１５話 最後の『敵』 アデライド視点（４）

（（……わたしはまだ、このゲームをクリアできていないのよね……））

　別室にあるベッドで休ませてもらっているわたしは、傍で見守ってくれているエリク様を横目で見つめた。

（（だから、もうすぐ……。バッドエンドを回避する方法が、分からなくなってしまう））

　この次と次の次に仕掛けられている作戦は、ゲーム内で乗り越えているから大丈夫。問題は、その次。
　数やストーリーの長さを鑑みると、恐らく最後になる悪巧み。それの対処法に関してはお手上げで、成功への手がかりすら掴めていない状況なのだ。

（（ここは現実世界……。ゲームとは違う……））

　やり直しはきかない。一度失敗したら二度目はない。
　ずっと頭にあったことだけど、元凶との戦いが始まったことで更に焦りと不安が押し寄せてくる。

（（あの時は、金曜の夜と土日を使えばどうにかクリアできると考えていた））

　たぶん、あと数十回はバッドエンドになってしまうと思っていた。
　そんな中、一発で成功しないといけない。
　改めて、厳しい戦いに身を置いているのだと実感する。

「アデライド、大丈夫だよ。すぐ良くなるからさ」
「うん。ありがとう、エリク」

　体調不良の恐怖を薄めようと、そっと優しく手を握ってくれる。
　そんな優しい心の持ち主だから、性格も含め全部が好きになって推すようになって。絶対に救いたくなるんだよね。

（（エリク様も、大丈夫ですよ。どんなに難しくても、必ずハッピーエンドに辿り着いてみせますから））

　心の中で増えていた、焦りと不安がみるみる消えていくのが分かる。
　気圧されている場合じゃない。
　わたしは心の中で気合を入れ、今一度攻略を誓ったのでした。

（（トビが仕掛けてくるバッドエンドへの罠を蹴散らす、そのためには、まずは――アレをしないといけないわね））

　ソレをできるようになるのは、ここを出てから。その後わたしはやって来た医者と適当に言葉を交わしたり診察をしてもらったりして、安全圏となる夜明けと共に施設を去る。
　そうして、急いでお屋敷に戻ったわたしは――