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第15話 最後の『敵』 アデライド視点(1)
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「4日振りだね。さ、行こうか」
「ええ、行きましょう。王子様、エスコートよろしくね」
「お任せください、お姫様」
「「ふふっ」」
あの日から4日後の、午前9時過ぎ。わたし達はとある伯爵令息の誕生日パーティーに招待されていて、わたしとエリク様は少しふざけながら――以前から好きだったやり取りを再現しながら、馬車に乗り込んだ。
「こうやってココから出発から一緒なのは、久しぶりだね」
「そうね。前は確か、2か月と20日前だったと思う」
この世界では誕生日パーティーに『婚約者ペア』として呼ばれた場合は、主役が男性だった場合は男性が女性のお屋敷に、主役が女性だった場合は女性が男性のお屋敷に迎えに行くという決まりがある。
シナリオによると最近招待されたのは女性のパーティーばかりで、ずっとカルエブン子爵邸スタートだったみたい。
「違う場所から始まると、なんだか新鮮だね。違う場所に向かうように感じるよ」
「確か、わたしも感じる。いつもと同じなのに違う感覚があると、なんだか得したみたいに思うわ」
「そういうちょっとした幸せって、いいよね。僕も好きだよ」
そんな風にわたし達は目的地に着くまでお喋りを行い、
「へぇ~、そうだったのね。おもしろい――ふぁ。ごめんなさい。欠伸が出てしまいました」
「気にしなくていいよ。実は迎えに行った時から、疲れ気味かな? って思ってたんだ。まだまだ着かないし、眠ったら?」
「でも……。移動中のお喋りを楽しみにしてくれていて……」
「お喋りなんていつでもできるよ。この先もずっとね。だから休んで。その方が僕も嬉しいから」
「…………ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわ」
第3の敵に備えて色々行っていて、4日前から1日3時間くらいしか眠れていなかった。本来のわたしはロングスリーパーでずっとふわふわしていて、ありがたく睡眠を取らせてもらう。
「おやすみなさい。……………………すぅ。すぅ。すぅ。すぅ。すぅ……」
「おやすみなさい。――てる――。――ばれ――」
手を優しく握られる感覚と何か呟かれた気がするけど、分からない。わたしはあっという間に眠りの世界に落ち、気が付いたら6時間近く経って目的地に着いていたくらい、熟睡してしまったのでした。
「お嬢様、少々お待ちください」
マリーさんが手早く髪の毛の乱れなどを直してくれて、おかげで『ルーヴァローテ家』の名に傷をつけない状態で参加できるようになった。なので感謝をしつつエリク様と共に会場に入り――
「来てくれてありがとう。カルエブン、ルーヴァローテ、会えて嬉しいよ」
――ワインレッドのサラサラの髪と力強さのある茶色のツリ目が目を引く、髪と同色のタキシードに身を包んだ美男。髪形も体型も仕草も纏う雰囲気もエリク様とそっくりな男性が、気さくな笑みを携えて近づいてきたのだった。
この男は、ザラローズ伯爵令息トビ。
今夜の主役であり――エリク様に強い憎しみを抱いている、最後の敵こと『元凶』だ。
「ええ、行きましょう。王子様、エスコートよろしくね」
「お任せください、お姫様」
「「ふふっ」」
あの日から4日後の、午前9時過ぎ。わたし達はとある伯爵令息の誕生日パーティーに招待されていて、わたしとエリク様は少しふざけながら――以前から好きだったやり取りを再現しながら、馬車に乗り込んだ。
「こうやってココから出発から一緒なのは、久しぶりだね」
「そうね。前は確か、2か月と20日前だったと思う」
この世界では誕生日パーティーに『婚約者ペア』として呼ばれた場合は、主役が男性だった場合は男性が女性のお屋敷に、主役が女性だった場合は女性が男性のお屋敷に迎えに行くという決まりがある。
シナリオによると最近招待されたのは女性のパーティーばかりで、ずっとカルエブン子爵邸スタートだったみたい。
「違う場所から始まると、なんだか新鮮だね。違う場所に向かうように感じるよ」
「確か、わたしも感じる。いつもと同じなのに違う感覚があると、なんだか得したみたいに思うわ」
「そういうちょっとした幸せって、いいよね。僕も好きだよ」
そんな風にわたし達は目的地に着くまでお喋りを行い、
「へぇ~、そうだったのね。おもしろい――ふぁ。ごめんなさい。欠伸が出てしまいました」
「気にしなくていいよ。実は迎えに行った時から、疲れ気味かな? って思ってたんだ。まだまだ着かないし、眠ったら?」
「でも……。移動中のお喋りを楽しみにしてくれていて……」
「お喋りなんていつでもできるよ。この先もずっとね。だから休んで。その方が僕も嬉しいから」
「…………ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわ」
第3の敵に備えて色々行っていて、4日前から1日3時間くらいしか眠れていなかった。本来のわたしはロングスリーパーでずっとふわふわしていて、ありがたく睡眠を取らせてもらう。
「おやすみなさい。……………………すぅ。すぅ。すぅ。すぅ。すぅ……」
「おやすみなさい。――てる――。――ばれ――」
手を優しく握られる感覚と何か呟かれた気がするけど、分からない。わたしはあっという間に眠りの世界に落ち、気が付いたら6時間近く経って目的地に着いていたくらい、熟睡してしまったのでした。
「お嬢様、少々お待ちください」
マリーさんが手早く髪の毛の乱れなどを直してくれて、おかげで『ルーヴァローテ家』の名に傷をつけない状態で参加できるようになった。なので感謝をしつつエリク様と共に会場に入り――
「来てくれてありがとう。カルエブン、ルーヴァローテ、会えて嬉しいよ」
――ワインレッドのサラサラの髪と力強さのある茶色のツリ目が目を引く、髪と同色のタキシードに身を包んだ美男。髪形も体型も仕草も纏う雰囲気もエリク様とそっくりな男性が、気さくな笑みを携えて近づいてきたのだった。
この男は、ザラローズ伯爵令息トビ。
今夜の主役であり――エリク様に強い憎しみを抱いている、最後の敵こと『元凶』だ。
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