一度もクリアできなかった乙女ゲームの世界に転生しました

柚木ゆず

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第12話 第二の敵の説得 アデライド視点(1)

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「どういうことなのよ!? なんでそこにいるのよ!!」

 約束の場所となった建物の中――。応接室に近い部屋に、ネリーのヒステリックな声が響き渡った。
 そうなるのも無理もない。だってわたしの隣に、自分の最愛の人がいるのだから。

「アンリに告げ口をしたのね!? アンリに助けを求めたのね!? やっぱりアンタ達はアンリを誘惑していたのね!?」
「違います。そうではなく――」
「アンリ!! そうなんでしょ!? 優しいアンリのことだからっ、断り切れなくなって助けに――」
「違います。わたしは貴方の婚約者様に、助けを求めたのではありません。無実を証明するにはこの方の証言が必要となり、同席いただいたのです」

 遮った声を遮り返し、いつもよりハッキリ発音をして相手の耳に言葉を入れる。
 殊更『無実』と『証明』を聞き取りやすく発音したおかげで聞く耳を持ってくれて、早速本題に入る。

「身に覚えがないのに、貴方の婚約者様がわたしの影を臭わせていた。原因を調べるべく貴方様の婚約者様の周辺を調べていくうちに、その理由が明らかになったのですよ」
「? アンリ? なにを出そうとして――お、お金? なに、これ……?」

 突然テーブルの上に置かれた、札束こと前払い分の報酬。もちろんコレだけでは理解できないから、解説をする。

「こちらは、計画に協力した報酬――その前払い分ですよ。わたしと関係があると貴方様に思い込ませる、そんな計画のね」
「……わたくしに、思い込ませる……? は……? なんでそんなことをする必要があるのよ? わたくしにそう思わせて誰が得するの!? 相思相愛のアンリがワザワザ手を貸す理由は!?」
「まず手を貸した理由。そちらは、貴方の婚約者様の旧友の借金です。……連帯保証人となってしまった昔馴染に泣きつかれて、心優しい貴方様の婚約者は放っておけなくなる。お家はあまり裕福ではなく、どうにか自分でお金を用意しようと思っていた矢先、何者かが交渉を持ち掛けて来たそうです」

 覆面で顔を隠した謎の男が急に現れ、提案してきた――。これに関しては事実で、その時の様子をアンリに詳説させた。

「もしかすると、その旧友もグルだったのかもしれませんね。とにかく。貴方様の婚約者様が協力していた理由は、こちらが理由です」
「……じゃあ、わたくしに思い込ませる方はなに? わたくしがそんな風に思い込んで、ソイツに何のメリットがあるのよ。あると思えないんだけど?」
「相手の正体が謎かつ以来の理由も説明がなったそうで、わたしもまったく分かりませんでした。ですがお二人の周辺を調べたことで、ある程度見当をつけることができました」
「わたくし達の周辺……!? な、なんなのよ……!? どんな見当がついたのよ……!?」
「アメロルス様、そして貴方様の婚約者様。お二方は美女美男として有名です」

 どちらも見掛けはとても良くて、婚約を結ばれるまでは異性からの人気が高かった。そんな設定がある。

「傍から見ていても分かります。お二方共に素晴らしい御心をお持ちで、内外共に優れた御人。……『交際したい』『結婚したい』と思うのは至極当然。婚約者様に関しては言わずもがな、アメロルス様ご自身を客観視した場合そうなりますよね?」
「え、ええ。アンリに並ぶ者は有史以来ひとりもいませんわ。ま、まあおかしな話ですけども。わたくしが男だとしたら、わたくしのような女性と関係を持ちたくなりますわ」

 ネリーは自己評価が非常に高いという設定もあり、あっさりと頷いた。
 こうさせられたら、説得成功に必要な第一段階はクリア。残すは第二段階のみで、畳みかけるべくすぐさま続けて――


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