一度もクリアできなかった乙女ゲームの世界に転生しました

柚木ゆず

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第10話 証明するための、始動 アデライド視点(1)

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 元凶から――正確には元凶の手先である謎の人物から持ち掛けられ、金に目が眩んで駒となっているアンリ・フォムイエ。彼との関係を否定するには、合わせて5つの行動を成功させる必要となる。
 その1つ目を行うためにわたしは、パーティーから帰るとすぐに馬車を乗り換えとある場所を移動した。

「お嬢様、この位置でよろしいでしょうか?」
「…………よく、見えますね。はい完璧です、ありがとうございます」

 停車した場所からは立派なお屋敷が見えるけど、そのお屋敷からはこちらが見えない地点。所謂死角。
 そこが今日の最初の目的で、御者の方に頷きを返したわたしは10時の方角にあるフォムイエ邸を見つめた。

「七海様。現在は午前9時32分でございます」
「マリーさん、ありがとうございます。……皆さん。到着して早々ですが、あと28分で動きがありますので次の準備をお願いします」

 隣から差し出された懐中時計を受け取り、引き続きフォムイエ邸の正門を熟視しながらも盤面の針を目で追う。
 カチ、カチ、カチ、カチ、カチ。
 長針が一生懸命動いて28周して、午前10時になった。いよいよ、大事な大事なイベントの始まりだ。

((ゲーム内と100パーセント同じ行動を取ってなくても、タイミングにズレは生じなかった。だから――やっぱりそうね。動き出した))

 フォムイエ邸の門が開き、馬車が――アンリが乗った馬車が、軽快に通り抜けていった。

「出ました。追ってください」
「御意! お任せを!!」

 これから行う、一つ目の行動。それは第一段階と第二段階があって、その1は尾行。
 目的地に着くまであちらに見つからずに追跡をする、それが目的だ。

((……あちらに気付かれても、フォムイエ家の馬車を見失っても、お仕舞い。緊張するわね))

 ゲームの難易度を上げるため、なんだと思う。こんなミッションにもかかわらずアンリがどこに行くかは完全ランダムで、先回りが出来ない。
 なのでシナリオを知っているというイニシアチブはなくて、これまででもっとも気が気でない時間が始まった。

((ゲーム内では定期的に馬車との距離が表示されて、その都度『スピードを少し落とす』『スピードを少し上げる』の選択肢で出て来ていた))

 ゲームの中で表示される間隔と現実の時間の流れは、全然違う。そこで両方の時間を頭の中で混ぜ合わせて適切なタイミングを見極め、

「スピードを落としてください」

「スピードを上げてください」

「スピードを落としてください」

 御者の報告を聞きながら速度を調節していって、そんな時間が3時間くらい過ぎた頃だった。ようやくフォムイエ家の馬車が停まり、目的地への到着を教えてくれた。

((もし尾行を悟られていたら、馬車から誰も降りてこずに引き返す。……アンリと護衛達が降りて来たから、大丈夫みたいね))

 追跡は大成功で、第二段階へと移れるようになった。そこでわたしも同じように、マリーさんや護衛の人達と共に馬車を降りて――

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