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第6話 5日後 アデライド視点(3)
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(……ジル……? ジルと、言った……? 俺の音が、うつくしい……?)
(ええ、そうですよ。エリクは、貴方の音を目標にしているのですよ)
ゲーム内ではこのあとエリク様視点で挿入されるシーンで、秘密が明かされる。
『なんて美しい音なんだ……!!』
初めてジル・ボルールの演奏を聴いた瞬間、エリク様は雷に打たれたような感覚に襲われた。以降『あのような音を出したい』と強く思うようになってジルの背中を追い始め、少しでも近づけるように日々練習を重ねているのだった。
(バカな……。俺の方が下で、ヤツはとっくに上になっているんだぞ……!?)
(それは、コンテストの結果――審査員の中での話。審査員は所詮人ですから好みが合って、自分がよいと思った方をより評価しているだけ。エリクはそれを理解していて、自分が上だと感じたことは一度もないのですよ)
(……………………)
(自分は、まだまだ下。後ろで、背中を追いかけている。だから早く追いつけるように、あんなにも必死になって練習しているのですよ)
この世界の曲は自然をテーマにしたものが多く、『自然の中で練習したら一体感を得られえるかもしれない』と考えてわざわざココでやる。などなど、あらゆる形で努力を重ねている。
(以上。こちらが、貴方が知らなかった真実です)
(……………………そうか……。俺は、酷い思い違いをしていたのか……)
ぽつりと。俯きがちになった口から、小さな声が零れた。
(……負けだ。俺の負けだ。器が違い過ぎる。姿勢が違い過ぎる。完敗だ)
そして――。ジルの中で憎しみが消えてバッドエンドへと進む道が消滅する、その合図となる台詞が出た。
(はは、はははは。もし別の人間が審査員をしていても、俺は負けている。だって、音に対する姿勢が違うんだもんな。今ならちゃんと分かる)
(そうですね、貴方は負けるでしょう。今は、ね)
ゲーム内ではジルの独白が続いてこの章が終わるのだけど、どうしても言いたいことがあったから。アデライドではなく、わたしの言葉を告げさせてもらう。
(貴方はもう、勘違いという負の鎖から解き放たれている。今のジル様なら真っすぐヴァイオリンと向かえて、きっと、更によい音を出せるようになりますよ)
(……そう、かな? 黒く染まった俺に、できるかな?)
(ええ、できますよ。だって今の貴方は、今までの貴方とは違うのですから)
これまでのジル・ボルールは、シナリオに動かされていたお人形。でも現在のジル・ボルールは、自分の意思で動く『人間』になった。
物語の都合に振り回されはしないのだから、どんな可能性だって秘めている。
(………………不思議だな。君の言葉を聞いていると、そうできる気がしてきたよ)
(気、ではありません。できる、んですよ。……わたしは忘れっぽくて、貴方がどんな感情を抱いていたか忘れてしまいました。これからの精進、楽しみにしています)
(……ルーヴァローテ様……。………………痛み入ります。このご恩は一生忘れません)
今のジルは、とってもいい顔をしている。だからもう、色んな意味で大丈夫。
わたしは笑みに笑みを返し、こうして――
バッドエンドに関する最初の問題は、無事解決となったのでした。
(ええ、そうですよ。エリクは、貴方の音を目標にしているのですよ)
ゲーム内ではこのあとエリク様視点で挿入されるシーンで、秘密が明かされる。
『なんて美しい音なんだ……!!』
初めてジル・ボルールの演奏を聴いた瞬間、エリク様は雷に打たれたような感覚に襲われた。以降『あのような音を出したい』と強く思うようになってジルの背中を追い始め、少しでも近づけるように日々練習を重ねているのだった。
(バカな……。俺の方が下で、ヤツはとっくに上になっているんだぞ……!?)
(それは、コンテストの結果――審査員の中での話。審査員は所詮人ですから好みが合って、自分がよいと思った方をより評価しているだけ。エリクはそれを理解していて、自分が上だと感じたことは一度もないのですよ)
(……………………)
(自分は、まだまだ下。後ろで、背中を追いかけている。だから早く追いつけるように、あんなにも必死になって練習しているのですよ)
この世界の曲は自然をテーマにしたものが多く、『自然の中で練習したら一体感を得られえるかもしれない』と考えてわざわざココでやる。などなど、あらゆる形で努力を重ねている。
(以上。こちらが、貴方が知らなかった真実です)
(……………………そうか……。俺は、酷い思い違いをしていたのか……)
ぽつりと。俯きがちになった口から、小さな声が零れた。
(……負けだ。俺の負けだ。器が違い過ぎる。姿勢が違い過ぎる。完敗だ)
そして――。ジルの中で憎しみが消えてバッドエンドへと進む道が消滅する、その合図となる台詞が出た。
(はは、はははは。もし別の人間が審査員をしていても、俺は負けている。だって、音に対する姿勢が違うんだもんな。今ならちゃんと分かる)
(そうですね、貴方は負けるでしょう。今は、ね)
ゲーム内ではジルの独白が続いてこの章が終わるのだけど、どうしても言いたいことがあったから。アデライドではなく、わたしの言葉を告げさせてもらう。
(貴方はもう、勘違いという負の鎖から解き放たれている。今のジル様なら真っすぐヴァイオリンと向かえて、きっと、更によい音を出せるようになりますよ)
(……そう、かな? 黒く染まった俺に、できるかな?)
(ええ、できますよ。だって今の貴方は、今までの貴方とは違うのですから)
これまでのジル・ボルールは、シナリオに動かされていたお人形。でも現在のジル・ボルールは、自分の意思で動く『人間』になった。
物語の都合に振り回されはしないのだから、どんな可能性だって秘めている。
(………………不思議だな。君の言葉を聞いていると、そうできる気がしてきたよ)
(気、ではありません。できる、んですよ。……わたしは忘れっぽくて、貴方がどんな感情を抱いていたか忘れてしまいました。これからの精進、楽しみにしています)
(……ルーヴァローテ様……。………………痛み入ります。このご恩は一生忘れません)
今のジルは、とってもいい顔をしている。だからもう、色んな意味で大丈夫。
わたしは笑みに笑みを返し、こうして――
バッドエンドに関する最初の問題は、無事解決となったのでした。
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