お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?

柚木ゆず

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第9話 シャーンス~豊穣祭で想うこと~ フィルベール視点(2)

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「その日から僕は、変わっていった。最初のうちは君の真似をしているだけだったけれど、時間に比例してちゃんと『自分』を持てるようになった。そうしたら視野が広がって――世界が広がっていって、新たなことにもチェンジしたくなってきて。色んなものを身につけていった」
「そんな姿を見て、わたしも感化されましたよ。頑張ってる人を見ていると、自分ももっと頑張ろう、という気持ちになりました。あの頃のわたし達は、立場は違えど切磋琢磨をしていましたね」

 光栄なことに、ティファニーも僕に影響を受けてくれていた。
 相手が〇〇をできるようになったから、自分も〇〇をできるようになろう。
 お互いそんな気持ちになっていて、いつも初めて会った場所で報告をし合っていた。

「二人だけの秘密の報告会。その時間が心地よくなって。もっと……いつまでも続いて欲しいと思うようになって。僕はティファニーに、人間としてだけでなく異性としても好意を持つようになった」
「わたしももっとお会いしたくなって、胸の中にある気持ちに気付きました。そして……」

 そんな時僕が告白をさせてもらって、受け入れてくれて。
 師弟であり友人から恋人になって。2年を過ごして、恋人から夫婦になった。

「……何度も言わせてもらっているけれど、改めて言わせてもらうね。……ティファニー、ありがとう。これからもよろしくお願いいします」
「わたしも、また言わせてもらいますね。こちらこそ、ありがとうございます。これからもよろしくお願い致します」

 今は外だけど、周囲の人々はイベントに夢中だから許してもらいたい。
 僕達は見つめ合い微笑み合ったあと、そっと唇を重ねた。

「伝承では成長を見届けたデーメテールは、正体を明かしたあと満足しながら返っていった。そして民達はデーメテールにお礼ができなかったことを悔やみ、毎年春に感謝の気持ちを大々的に届けるようにしたそうだね」

 それが、この国の豊穣祭。
 豊穣の喜びと感謝を伝えるための、お祭りだ。

「幸いにも僕にとってのデーメテールは、ずっと傍にいてくれる。これからもたっぷりお礼をさせてもらうね。もちろんティファニーの気持ちも、尊重させてもらうよ」
「わたしも、お礼をしたいことが沢山ありますから。お礼をさせてもらいますね」
「うん、分かったよ。じゃあ――豊穣祭も終わったことだし、そろそろ移動しようか。予約しているリストランテは、こっちの方に――ん?」

 不意に殺気を、それも以前感じたことのある気配を感じ取った。

((この殺気は……。発生源はこの方向で………………見つけた。やっぱりあの男だった))

 僕から見て11時の方角にある、道。そちらへと視線を向けてみると、そこには3人の護衛を連れて道を歩いているレオナルドがいたのだった。

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