上 下
7 / 24

第5話 ひとつの仕掛け ティファニー視点(2)

しおりを挟む
「どこかの誰かさんは――ああ失礼、目の前にいらっしゃるレオナルド・ラインメーズ様でしたね。貴方様はティファニーが居たら不幸になると仰ったそうですが、不思議ですね? ティファニーが傍に居ても、不幸なことは何一つありませんでしたよ?」

 こくりと首を傾げていたあと。フィルベールさんは左に傾けていた首を戻し、次は右にゆっくりと傾けました。

「僕を含め何十何百の人間が近くにいましたが、誰にも一度もなかった。それに僕は昨日まで、彼女と婚約していました。当時の貴方様と同じ状態だったのに、僕自身にも『家』にも、財に関する問題などもまったく起きませんでしたね。はて、これはどういうことなのでしょうか……?」
「……………………」
「ああ、分かりました。利益減少の件は、始まった時期と婚約がたまたま重なっただけ。あの出来事は単純に、ハピンズ商会の経営陣が原因。舵を取る者が無能だったが故に起きたものだった――」
「言葉に気をつけろ!! 俺が無能だと!? ふざけるな!!」

 落ち着いた声は、ヒステリックな大声にかき消されました。

「ハピンズ商会はそれまでずっと安定して利益をあげていたんだぞ!! 同じことを続けているのに変わってしまった!! 明らかにミントのせいじゃないか!!」
(ふふ、とっくに分かっているくせに。でも、それでいい)「いえいえとんでもない、彼女のせいなんかではありません。別の理由でも、『ティファニーは疫病神ではない』と断言できますよ」
「べつの理由!? なっ、なんだ!? なぜそう言える!?」
「婚約破棄の前後で、そちらはなにも変わっていないからですよ。……レオナルド・ラインメーズ様。ハピンズ商会は曰く疫病神がいなくなってから、利益が戻りましたか? 一時的にではなく、安定してもとに近い数字を出せるようになりましたか?」
「っっ」

 レオナルド様はああ言っていましたが、戻っていないのは明白。それどころか、悪化する一方だと分かります。
 その事実が一瞬だけ口を噤ませましたが、その口はすぐに再びせわしなく動き始めました。

「ああっ、戻ったとも!! なったとも!! お前は俺がさっき言った内容をもう忘れたのか!? 規模縮小はそういったことが理由ではないと言っただろう!! ソレは口外できない計画が理由っ、ハピンンズ商会の更なる飛翔のための力溜めなんだよっ!! ミントがいなくなったらすぐに回復してっ、あっという間に元の水準まで戻っている!! 今日までずっっとな!!」
「へぇ、そうだったのですね。別人のようにやつれているのは、経営状態の悪化よる影響かと思っておりました」
「そっ、それもっ、多忙が理由だと説明したはずだ!! 来年の春には、状況ががらりと変わるっ。サナギは華々しく蝶になると言っただろうが!!」
「おっと失礼、そういえばそのように仰っておりましたね。そうですか、そうですか。来年の春には、ティファニーは疫病神だったとご自身の主張が正しいと証明していただけるのですね」

 そう言いながら笑みを返した、その直後でした。フィルベールさんは小声で、(この様子なら乗ってくるね)と呟きました。
 そして、少しだけ口元を緩めながら――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

駆け落ちから四年後、元婚約者が戻ってきたんですが

影茸
恋愛
 私、マルシアの婚約者である伯爵令息シャルルは、結婚を前にして駆け落ちした。  それも、見知らぬ平民の女性と。  その結果、伯爵家は大いに混乱し、私は婚約者を失ったことを悲しむまもなく、動き回ることになる。  そして四年後、ようやく伯爵家を前以上に栄えさせることに成功する。  ……駆け落ちしたシャルルが、女性と共に現れたのはその時だった。

冷遇された王妃は自由を望む

空橋彩
恋愛
父を亡くした幼き王子クランに頼まれて王妃として召し上げられたオーラリア。 流行病と戦い、王に、国民に尽くしてきた。 異世界から現れた聖女のおかげで流行病は終息に向かい、王宮に戻ってきてみれば、納得していない者たちから軽んじられ、冷遇された。 夫であるクランは表情があまり変わらず、女性に対してもあまり興味を示さなかった。厳しい所もあり、臣下からは『氷の貴公子』と呼ばれているほどに冷たいところがあった。 そんな彼が聖女を大切にしているようで、オーラリアの待遇がどんどん悪くなっていった。 自分の人生よりも、クランを優先していたオーラリアはある日気づいてしまった。 [もう、彼に私は必要ないんだ]と 数人の信頼できる仲間たちと協力しあい、『離婚』して、自分の人生を取り戻そうとするお話。 貴族設定、病気の治療設定など出てきますが全てフィクションです。私の世界ではこうなのだな、という方向でお楽しみいただけたらと思います。

嫌いな双子の姉が聖女として王都に連れてかれた→私が本当の聖女!?

京月
恋愛
クローバー帝国に農民として住んでいる双子の姉妹姉のサリーと妹のマリー 姉のサリーは何かと私を目の敵にして意地悪してくる そんなある日姉が光の魔法に目覚め聖女としてクローバー帝国の王都に連れていかれた 姉のサリーは豪華絢爛な生活をしている中マリーは1人農地で畑を耕す生活を送って来ると隣国のスパイが私を迎えに来る え?私が本当の聖女!?

勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い

猿喰 森繁
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」 「婚約破棄…ですか」 「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」 「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」 「はぁ…」 なんと返したら良いのか。 私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。 そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。 理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。 もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。 それを律儀に信じてしまったというわけだ。 金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。

元婚約者は入れ替わった姉を罵倒していたことを知りません

ルイス
恋愛
有名な貴族学院の卒業パーティーで婚約破棄をされたのは、伯爵令嬢のミシェル・ロートレックだ。 婚約破棄をした相手は侯爵令息のディアス・カンタールだ。ディアスは別の女性と婚約するからと言う身勝手な理由で婚約破棄を言い渡したのだった。 その後、ミシェルは双子の姉であるシリアに全てを話すことになる。 怒りを覚えたシリアはミシェルに自分と入れ替わってディアスに近づく作戦を打ち明けるのだった。 さて……ディアスは出会った彼女を妹のミシェルと間違えてしまい、罵倒三昧になるのだがシリアは王子殿下と婚約している事実を彼は知らなかった……。

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

私の味方は王子殿下とそのご家族だけでした。

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のコーデリア・アレイオンはミストマ・ストライド公爵から婚約破棄をされた。 婚約破棄はコーデリアの家族を失望させ、彼女は責められることになる。 「私はアレイオン家には必要のない存在……将来は修道院でしょうか」 「それならば、私の元へ来ないか?」 コーデリアは幼馴染の王子殿下シムルグ・フォスターに救われることになる。 彼女の味方は王家のみとなったが、その後ろ盾は半端ないほどに大きかった。

ざまぁ?………………いや、そんなつもりなかったんですけど…(あれ?おかしいな)

きんのたまご
恋愛
婚約破棄されました! でも真実の愛で結ばれたおふたりを応援しておりますので気持ちはとても清々しいです。 ……でも私がおふたりの事をよく思っていないと誤解されているようなのでおふたりがどれだけ愛し合っているかを私が皆様に教えて差し上げますわ! そして私がどれだけ喜んでいるのかを。

処理中です...