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第5話 ひとつの仕掛け ティファニー視点(1)
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「僕に向けたものではなく、正式な場ではないとはいえ、こちらだけが身分を伏せているのはマナー違反に当たりますね」
首を傾げているとフィルベールさんは、レオナルド様に向けて流麗なお辞儀を行いました。
「レオナルド・ラインメーズ様、お初にお目にかかります。わたくしは隣国ラックスに属する『セラファーブ侯爵家』の次男であり、グリフォン第二騎士団の団長を務めるフィルベールと申します」
「………………なんだって……? 侯爵家……? 騎士団……? はっ、つまらない嘘をつくな」
「嘘ではありませんよ。こちらが証拠でございます」
剣の文様が刻まれたバッジと、グリフォンの姿が彫られたバッジ。
フィルベールさんは襟元にある、セラファーブ侯爵家と第二騎士団所属である証を指差しました。
「貴方様も、侯爵家の人間だそうですね。ならば少なくとも一方は目にした記憶があると思いますが、いかがでしょうか?」
「…………あ、ああ……。ある……。どっちも、見たことが、ある……。ばっ、バカな! お前はあのセラファーブ家の人間でっ、あのグリフォン第二騎士団の団長だって!?」
レオナルド様が目を丸くするのは、無理もありません。
セラファーブ家は王家と深い繋がりのある、由緒正しき家系。グリフォン第二騎士団は戦闘力だけではなく知力を兼ね備えた、戦闘も頭脳戦も高いレベルで行える精鋭の集まりなのですから。
「名門中の名門、エリートの中のエリートじゃないか!? そんな人間がなぜっっ、ミントみたいな見た目しか取り柄のない下民を飼ってるんだ!? ほかにいくらでも良い女を置いておけるのに!!」
「そういえば貴方様は、勘違いをされていましたね。ティファニーと僕は、『飼う』『飼われる』といったいかがわしい関係ではありませんよ。僕達は、対等。お互いを尊重し合える一生涯のパートーナー、正真正銘の夫婦なのですよ」
「……は……? はぁ……っ? 夫婦!? 正式なっ!? 名門侯爵家の次男とっ、地位も名前も失った平民以下に成り下がった女が本物の夫婦だって!?」
「ええ、そう言っております。確かに彼女は地位や名前を失いましたが、温かく優しい心などは宿ったままでした。……僕はそんな部分に何度も背中を押され、人としてだけではなく異性としても惹かれるようになりましてね。告白をさせてもらい、とある方の協力を得て結婚をしたのですよ」
フィルベールさんの親友であらせられる、ロック第三王子殿下。殿下が先導してくださり、わたしはフェニックス第一騎士団団長の娘――ザレンタル侯爵家の養女となり、フィルベール様との婚約と結婚が叶ったのです。
「ミントが……。侯爵……令嬢……」
「殿下だけではなく騎士団関係者全員が、ティファニーという人間に感心や敬意の念を抱いていたのです。故に反対する者はおらず、それどこから沢山の人が『養子にしたい』と名乗り出てくださり、何もかもが円滑に進みましたよ」
「……………………」
「彼女が騎士団に来てくれてから、僕自身も周りも一回り以上成長できました。彼女の人柄が、様々な幸せをもたらしてくれて――おや? おかしいですね?」
そっとわたしの右手を握り、微笑んでくれていたフィルベールさん。柔らかく細まっていた両目が元の大きさに戻り、レオナルド様に向かって首を傾げました。
「おかしい、だって……? なにがおかしいんだ……?」
首を傾げているとフィルベールさんは、レオナルド様に向けて流麗なお辞儀を行いました。
「レオナルド・ラインメーズ様、お初にお目にかかります。わたくしは隣国ラックスに属する『セラファーブ侯爵家』の次男であり、グリフォン第二騎士団の団長を務めるフィルベールと申します」
「………………なんだって……? 侯爵家……? 騎士団……? はっ、つまらない嘘をつくな」
「嘘ではありませんよ。こちらが証拠でございます」
剣の文様が刻まれたバッジと、グリフォンの姿が彫られたバッジ。
フィルベールさんは襟元にある、セラファーブ侯爵家と第二騎士団所属である証を指差しました。
「貴方様も、侯爵家の人間だそうですね。ならば少なくとも一方は目にした記憶があると思いますが、いかがでしょうか?」
「…………あ、ああ……。ある……。どっちも、見たことが、ある……。ばっ、バカな! お前はあのセラファーブ家の人間でっ、あのグリフォン第二騎士団の団長だって!?」
レオナルド様が目を丸くするのは、無理もありません。
セラファーブ家は王家と深い繋がりのある、由緒正しき家系。グリフォン第二騎士団は戦闘力だけではなく知力を兼ね備えた、戦闘も頭脳戦も高いレベルで行える精鋭の集まりなのですから。
「名門中の名門、エリートの中のエリートじゃないか!? そんな人間がなぜっっ、ミントみたいな見た目しか取り柄のない下民を飼ってるんだ!? ほかにいくらでも良い女を置いておけるのに!!」
「そういえば貴方様は、勘違いをされていましたね。ティファニーと僕は、『飼う』『飼われる』といったいかがわしい関係ではありませんよ。僕達は、対等。お互いを尊重し合える一生涯のパートーナー、正真正銘の夫婦なのですよ」
「……は……? はぁ……っ? 夫婦!? 正式なっ!? 名門侯爵家の次男とっ、地位も名前も失った平民以下に成り下がった女が本物の夫婦だって!?」
「ええ、そう言っております。確かに彼女は地位や名前を失いましたが、温かく優しい心などは宿ったままでした。……僕はそんな部分に何度も背中を押され、人としてだけではなく異性としても惹かれるようになりましてね。告白をさせてもらい、とある方の協力を得て結婚をしたのですよ」
フィルベールさんの親友であらせられる、ロック第三王子殿下。殿下が先導してくださり、わたしはフェニックス第一騎士団団長の娘――ザレンタル侯爵家の養女となり、フィルベール様との婚約と結婚が叶ったのです。
「ミントが……。侯爵……令嬢……」
「殿下だけではなく騎士団関係者全員が、ティファニーという人間に感心や敬意の念を抱いていたのです。故に反対する者はおらず、それどこから沢山の人が『養子にしたい』と名乗り出てくださり、何もかもが円滑に進みましたよ」
「……………………」
「彼女が騎士団に来てくれてから、僕自身も周りも一回り以上成長できました。彼女の人柄が、様々な幸せをもたらしてくれて――おや? おかしいですね?」
そっとわたしの右手を握り、微笑んでくれていたフィルベールさん。柔らかく細まっていた両目が元の大きさに戻り、レオナルド様に向かって首を傾げました。
「おかしい、だって……? なにがおかしいんだ……?」
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