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プロローグ 思い出の場所で ティファニー視点
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「ティファニーが言っていた通りだ。素敵な場所だね」
「はい、フィルベールさん。……ここは、とても有名な場所。整備などされていないか心配でしたが、8年経ってもあの頃のままでした」
わたし達が暮らす国『ラックス』の隣にある国、『バッゼルク』。その西部にある『パラタイムの森』の中央に存在する、『祝福の樹』と呼ばれる大樹。
今日はわたしの我が儘を聞いてもらい、緑が溢れる懐かしい場所を訪れていました。
「この場所でティファニーは、決意をした。自暴自棄になってもおかしくないのに、新たな人生を歩む決意をしてくれたんだね」
「……あの日。わたしは全てを失い、目の前が真っ暗になりました」
わたしがまだこの国で、ミント・ロヴィックという名の伯爵令嬢だった頃。ある出来事が切っ掛けで婚約を破棄され、それが理由で『家』を追放されてしまった。
「日常の崩壊。今まであったもの、場所が一瞬でなくなってしまい、絶望しました。自殺だって頭をよぎりました。……でも」
でも。
わたしは、そうしなかった。
「理不尽なことに負けるのは、悔しいじゃないですか。おかしな人達にされたことを理由にせっかく貰った命を捨てるなんて、勿体ないじゃないですか。……だからわたしはここに来て、『祝福の樹』に生まれ変わると誓ったんです」
今目の前にある大樹には、努力をする者に祝福を与えてくれる、という言い伝えがありました。
あの頃のわたしは、なにも持っていなかったから。『祝福の樹』に、背中を押してもらおうと思ったんです。
「……すべて捏造されたものですが、悪評が広まっていてこの国ではまともに生きていけない。そこでわたしは、その足でラックスに移動して。それから、色々なことありました」
「そうだね。色々なことが、あった」
「あの日から8年。その間にわたしは新たな名前と仕事を得て、新しい生き甲斐も見つけました。そして、その中で大切な人と出会って――」
「おっ、お前! お前はっ、ミントだな!?」
思い返しながら閉じていた目をゆっくり開け、フィルベールさんを見つめようとしていた時でした。
突然背後から、大きな声が聞こえてきました。
「その珍しい髪の色とハープのような声っ! 珍しいから分かるぞっ! 当時の面影はあまりないがっ、お前はミントだ! ミント・ロヴィックなんだよな!?」
(……帯剣した護衛が3人、彼は貴族のようだね。ティファニー、どうする? 僕が追い払おうか?)
(過去のわたしを知っている、あの方の正体が気になります。まずは言葉を交わしてみようと思います)
頬が痩せこけた、わたし達よりも一回りほど上に――三十代後半に見える男性。わたしはこのような方を知りません。
ですのでその正体が気になり、静かに頷きを返しました。
「仰る通り、かつてのわたしはその名を名乗っておりました。……それをご存じな貴方様は、どなたなのですか?」
「なっ!? 俺を忘れているだと!? 俺はっ、レオナルド!! レオナルド・ラインメーズ様だ!!」
そのヒステリック大声を聞いて、わたしは驚かずにはいられませんでした。
なぜなら。今、目の前にいるその方は――
わたしの、元婚約者。
わたしがこの国にいられなくなった、その原因を作った人間だったのですから。
「はい、フィルベールさん。……ここは、とても有名な場所。整備などされていないか心配でしたが、8年経ってもあの頃のままでした」
わたし達が暮らす国『ラックス』の隣にある国、『バッゼルク』。その西部にある『パラタイムの森』の中央に存在する、『祝福の樹』と呼ばれる大樹。
今日はわたしの我が儘を聞いてもらい、緑が溢れる懐かしい場所を訪れていました。
「この場所でティファニーは、決意をした。自暴自棄になってもおかしくないのに、新たな人生を歩む決意をしてくれたんだね」
「……あの日。わたしは全てを失い、目の前が真っ暗になりました」
わたしがまだこの国で、ミント・ロヴィックという名の伯爵令嬢だった頃。ある出来事が切っ掛けで婚約を破棄され、それが理由で『家』を追放されてしまった。
「日常の崩壊。今まであったもの、場所が一瞬でなくなってしまい、絶望しました。自殺だって頭をよぎりました。……でも」
でも。
わたしは、そうしなかった。
「理不尽なことに負けるのは、悔しいじゃないですか。おかしな人達にされたことを理由にせっかく貰った命を捨てるなんて、勿体ないじゃないですか。……だからわたしはここに来て、『祝福の樹』に生まれ変わると誓ったんです」
今目の前にある大樹には、努力をする者に祝福を与えてくれる、という言い伝えがありました。
あの頃のわたしは、なにも持っていなかったから。『祝福の樹』に、背中を押してもらおうと思ったんです。
「……すべて捏造されたものですが、悪評が広まっていてこの国ではまともに生きていけない。そこでわたしは、その足でラックスに移動して。それから、色々なことありました」
「そうだね。色々なことが、あった」
「あの日から8年。その間にわたしは新たな名前と仕事を得て、新しい生き甲斐も見つけました。そして、その中で大切な人と出会って――」
「おっ、お前! お前はっ、ミントだな!?」
思い返しながら閉じていた目をゆっくり開け、フィルベールさんを見つめようとしていた時でした。
突然背後から、大きな声が聞こえてきました。
「その珍しい髪の色とハープのような声っ! 珍しいから分かるぞっ! 当時の面影はあまりないがっ、お前はミントだ! ミント・ロヴィックなんだよな!?」
(……帯剣した護衛が3人、彼は貴族のようだね。ティファニー、どうする? 僕が追い払おうか?)
(過去のわたしを知っている、あの方の正体が気になります。まずは言葉を交わしてみようと思います)
頬が痩せこけた、わたし達よりも一回りほど上に――三十代後半に見える男性。わたしはこのような方を知りません。
ですのでその正体が気になり、静かに頷きを返しました。
「仰る通り、かつてのわたしはその名を名乗っておりました。……それをご存じな貴方様は、どなたなのですか?」
「なっ!? 俺を忘れているだと!? 俺はっ、レオナルド!! レオナルド・ラインメーズ様だ!!」
そのヒステリック大声を聞いて、わたしは驚かずにはいられませんでした。
なぜなら。今、目の前にいるその方は――
わたしの、元婚約者。
わたしがこの国にいられなくなった、その原因を作った人間だったのですから。
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