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第13話 その後~ベンジャミン達の場合~ ベンジャミン視点
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「おはよう、ルーシー。天気も、俺達を祝福してくれているのかもしれないね」
サテファーズ伯爵邸に乗り込んだ、その次の日。儀礼に則りレーズリック伯爵邸を訪れ、俺は玄関部で頭上を見上げた。
今日の天気は快晴で、しかもはっきりとした虹が架かっている。この国では快晴と虹は幸運をもたらすものとされているので、タイミング的にそうなのだと感じた。
「ふふっ、そうですね。……あの時とは――ぁ、ごめんなさいベンジャミン様。お伝えしたいことがあるのですが、そうすれば台無しにしてしまい兼ねませんので。こちらは式の最後にさせていただきますね」
「うん。楽しみにしているよ」
こうして迎えに来ている際は――式場に着くまでは、どんなに大事で重要な話であったとしても、僅かでも暗さが入る内容はタブーとされている。なので俺もまた頷きを返し、当主夫妻に――まもなく義父母となる方々に、『新婦を連れて先にゆきます』という挨拶を行う。
そしてそれが済むとルーシーをお姫様抱っこにして、ウチの馬車へとエスコートした。
「それじゃあ行こうか。次の一歩を踏み出しに」
「はい……っ。行きましょう……っ!」
いつもは対面に座るのだけれど、この日は必ず隣同士と決まっている。そこで俺達は横を向き合って微笑み合い、まずは西へと――式が行われる教会とは正反対の方角に、馬車は進み始める。
挙式のために動き出したはずなのに、真逆へと向かっている理由。それはこの国には、『出逢った場所』を通ってから向かう、という決まりがあるからだ。
――俺達が出会った場所。それは橋、ルーシーが自死を試みていた場所――。
なので、非常に嫌な場所に……ということには、ならない。
「私はもし決まりがなくても、今日はここを通るようにお願いをしていました。ベンジャミン様と知り合えた、大切な場所ですので」
有難いことに俺との出来事が『負の記憶』を塗り潰してくれていて、プラスの印象しか抱かないところになっている。だから俺達は柔らかい笑みを浮かべたまま橋を通過し、
「ベンジャミン様。緊張しますね」
「そうだね、初めてだからどうしても緊張してしまうよね。でも」
「はいっ。それ以上に、待ち遠しさがあります」
俺達は他愛もない、だけどかけがえのない話をしながら進み、やがて会場に到着した。
「ルーシー。じゃあ、またあとで」
「はい、ベンジャミン様。またあとでお会いしましょう」
これはこの国の決まりではなく、常識的なもの。新郎新婦が支度を行う部屋は別々となっているため、俺達は一旦別れる。
そしてそれぞれが、式に必要な準備を整え――。それから数時間後の、正午。ついに、俺達の結婚式が始まったのだった。
サテファーズ伯爵邸に乗り込んだ、その次の日。儀礼に則りレーズリック伯爵邸を訪れ、俺は玄関部で頭上を見上げた。
今日の天気は快晴で、しかもはっきりとした虹が架かっている。この国では快晴と虹は幸運をもたらすものとされているので、タイミング的にそうなのだと感じた。
「ふふっ、そうですね。……あの時とは――ぁ、ごめんなさいベンジャミン様。お伝えしたいことがあるのですが、そうすれば台無しにしてしまい兼ねませんので。こちらは式の最後にさせていただきますね」
「うん。楽しみにしているよ」
こうして迎えに来ている際は――式場に着くまでは、どんなに大事で重要な話であったとしても、僅かでも暗さが入る内容はタブーとされている。なので俺もまた頷きを返し、当主夫妻に――まもなく義父母となる方々に、『新婦を連れて先にゆきます』という挨拶を行う。
そしてそれが済むとルーシーをお姫様抱っこにして、ウチの馬車へとエスコートした。
「それじゃあ行こうか。次の一歩を踏み出しに」
「はい……っ。行きましょう……っ!」
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なので、非常に嫌な場所に……ということには、ならない。
「私はもし決まりがなくても、今日はここを通るようにお願いをしていました。ベンジャミン様と知り合えた、大切な場所ですので」
有難いことに俺との出来事が『負の記憶』を塗り潰してくれていて、プラスの印象しか抱かないところになっている。だから俺達は柔らかい笑みを浮かべたまま橋を通過し、
「ベンジャミン様。緊張しますね」
「そうだね、初めてだからどうしても緊張してしまうよね。でも」
「はいっ。それ以上に、待ち遠しさがあります」
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「ルーシー。じゃあ、またあとで」
「はい、ベンジャミン様。またあとでお会いしましょう」
これはこの国の決まりではなく、常識的なもの。新郎新婦が支度を行う部屋は別々となっているため、俺達は一旦別れる。
そしてそれぞれが、式に必要な準備を整え――。それから数時間後の、正午。ついに、俺達の結婚式が始まったのだった。
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