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第11話 だから、こうしてここにいる ベンジャミン視点(3)

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「あの方がお前には合っていると思っていたけれど、まだまだ足りなかったらしい。そこでお前には、新しい罰を下す」

 あのような、比較的穏やかなやり方はもうしない。これからは厳しく、長く、心身を苛むものを与える。

「こ、殺す、のか……!? 僕を殺すのかぁぁ……!?」
「そうしたいところだが、それだと一瞬で済んでしまう。それでは意味がないから、お前にはこれからとある場所に向かってもらうことにした。父親と一緒にな」

 そう告げて廊下へと声をかけると、後ろ手に拘束された当主が――もう一人の元凶が、青ざめてやって来た。

「っ! 父上っ!? 父上っ!!」
「ピエール……すまん……。…………べっ、ベンジャミン様お許しください……。まさか、あのくらいで自殺を試みるとは思っておらず……。ルーシー・レーズリックの行動は、想定外でして……。ど、どうかっ! お許しをぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!」
「『あのくらいで』。当たり前のようにそう吐く人間を、許すはずがないだろう」
「おっ、お願いします!! 一度だけチャンスを!! どうかっ、どうかっ! やり直す機会をおあたえくだぐぇ…………」

 コイツとこれ以上、放つ必要はない。なので意識を刈り取っていただき、俺はヤツの息子ピエールへと向き直った。

「今ので、どう足掻いても無駄だって分かっただろう? お前達の未来は、地獄と確定している」
「そ、そんな……。い、いやだ……。お、お願いだ……。たすけ」
「助けるつもりはない、そう言ったはずだ。それに仮に助けようとしても、もうできないんだよ。お前達親子は、レーデフェル公爵家の関与を知ってしまっているからな」

 公爵様は特に警戒心が強く、『家族であってもこの関係を漏らさないこと』を後ろ盾の条件とされている。そのため関係を知ってしまった時点で、自由を奪われる未来が確定しているんだ。

「き、聞くつもりなんて……。なかったのにぃぃ……! じゃっ、じゃあ! ぼくはっ! どこにっ、連れて行かれるんだぁ…………!?」
「それは、着いてからのお楽しみだ。移動中もたっぷりと不安に襲われて、衰弱するといい」
「い、いやだぁぁぁぁぁぁぁ!! いやだああああああっ!! やめろぉぉっ! やめてくれぇぇぇぇぇ――びぃぃぃぃ…………」

 恐怖の量が、許容範囲を超えてしまったらしい。泣き叫んでいたピエールは泡を吹き出し、真後ろに倒れてしまった。

「……お前達はやりすぎてしまったから、どんなに取り乱しても同情はしない」

 だから――

「お願い致します」
「「「「「「はっ」」」」」」

 俺はレーデフェル公爵家の影に一礼を行い、愚かな親子は豪奢な部屋から運び出されてしまったのだった。
 そしてその後、2人は――

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