最愛の人が、元婚約者にしつこく復縁を迫られているらしい

柚木ゆず

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第9話 完璧だ! ~今日は最高の日になる~ 俯瞰視点

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「はっはっはっ! はーっはっはっは! 完璧っ! 完璧だっっ!」

 あれから13日後の、午後4時過ぎのことでした。サテファーズ伯爵邸内にあるピエールの自室では、彼の大笑いが響き渡っていました。

 あのあとも引き続き反省した芝居をしていて、ベンジャミンには――最も厄介な存在である大公にも、本心を一切悟られないこと。
 そんな状況下で、一流の殺し屋が動き出すこと。

 それらによって彼は、計画の成功を確信。そのためあの日と同じく、ブラッディ・メアリーを傾けながら笑っていたのでした。

「今頃ヤツは、ロッカの湖に――人気(ひとけ)が少ない場所に居る。そろそろ、この世を去る頃だな」

 彼は豪華な掛け時計を一瞥し、すっかり好物となっているカクテルを一口飲みます。そうして再び大口を開けて笑い、満面の笑みで吉報を待ちます。

「貴族絡みの暗殺は大騒動、かなり早く情報は広まる。だから…………遅くても3時間後、午後7時には貴族界が大騒ぎになるはずだ」

 知れ渡るまでは、あと3時間か――。まいったな、少々早く騒ぎ始めてしまったか――。つい先走ってしまったな――。などなど。
 ピエールはワザとらしく微苦笑を浮かべ、今という嬉しくて仕方ない時間を存分に楽しみます。


「『待つ』という行為は腹立たしいと思っていたが、まさかこんなにも楽しい『待つ』があるだなんてな。いやぁ~、まだまだ見識が狭いな僕は」

「そうだなぁ。僕は午後8時に訃報を把握したことにして…………。すぐさまルーシーのもとに駆け寄りたいが、早すぎると不自然に思われるかもしれない。そこで…………明日の早朝、優しい声をかけにいくか」


 安心しておくれ、ルーシー。明日は――結婚式当日は、予定通り君にとって最高の日になるよ。傷付いた心を僕が癒してあげるから、楽しみにしていてね――。
 今日もまたあまりにも身勝手なものを口にし、そうしている間に3時間が経過。そろそろ訃報こと吉報が入る時間となりました。

「いよいよか、いよいよだな……! 至高の時間がやって来る……!!」

 その嬉しいニュースは、父ダニエルが持って来てくれる約束となってしまい。そのため追加で用意させたブラッディ・メアリーを味わいながら待ち、やがて部屋の扉が勢いよく開け放たれたのですが――

「な…………」

 それを切っ掛けとして、ピエールの顔から笑みが消えてしまいます。
 なぜならば――

「突然すまないね、ピエール。君と話しがしたくて、邪魔させてもらったよ」

 ――部屋に入ってきたのは、父ダニエルではなくベンジャミン。とっくに殺されているはずの男が、突如現れたからです。

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