最愛の人が、元婚約者にしつこく復縁を迫られているらしい

柚木ゆず

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第8話 計画 俯瞰視点(2)

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「アンタ、凄腕の殺し屋なんだろう? ……消して欲しい人間が居るんだよ」

 薄暗い路地の、更に暗い場所にある小さなバー。そこのカウンター席に腰を下ろしたピエールは、マスターを務める男に書類を差し出しました。
 彼が今いる場所は、所謂『裏世界』。暗殺依頼を行うため、無法地帯と呼べる場所に足を踏み入れていたのです。

「対象はその紙にある、ヴァルスター伯爵家のベンジャミン。貴族の暗殺は骨が折れるだろうが、アンタなら可能だろう?」
「……可能ではありますが、実行するか否かは報酬次第でございます。貴方様はわたくしのために、いくら用意できるのでしょうか?」
「6000万ルピス。こいつを全て、先払いで支払おう」

 合わせて60の札束。護衛担当者2人がカウンターに並べ、そうすれば前方からは「ほぅ」と小さな声が漏れました。

「これが、僕の誠意だ。……やってくれるな? ヤツをこの世から抹消してくれるよな?」
「畏まりました。必ずや完遂させましょう」

 貴族相手の仕事は、ピエールが言っていたように骨が折れます。ですが報酬が破格であること、ターゲットは暗殺経験のある伯爵家クラスであること。それによってマスターこと殺し屋ダニックは了承し、紳士的だった双眸がギラリと光りました。

「クライアント様。期限、殺し方など、殺害に関するご要望はございますでしょうか?」
「ヤツは、2週間後に結婚式を挙げる予定らしい。そこで、その当日は――流石に難しいか。前日に、ルーシーの目の前で仕留めて欲しい」

 式が間近になればなるほどルーシーの期待は膨らみ、そんな状態でその瞬間を目の当たりにしたら、ダメージは何倍にも大きくなる。そこに自分が現れて慰め、それを活かして復縁に持ち込んでやる――。

((あの男は傷心を利用して、ルーシーを自分のものにしやがった。だから今度は、こっちが利用してやる。覚悟しておけよ……!!))

 ピエールは、そういったことも考えていたのです。

「ヤツはまったく、こちらの内心に気付いてない。そしてこの国では貴族の男は式前日の午後4時に『ロッカの湖』に祈りを捧げる伝統があって、その際にはルーシーも同行するはず。よってそれは殊更に容易なはずだ」
「了解いたしました。必ずや吉報をお届けしますよ」
「ははっ、こいつは頼もしいな。…………あの男は社交界で邪魔なんだ・・・・・・・・・・・・・。我がデミリオン子爵家のみらい――なんでもない。とにかく頼んだぞ」

 素性を悟られないよう一芝居を打ち、せっかくだからと、カクテルをオーダー。流血を想起させるトマトジュースを用いたカクテルブラッディ・メアリーを飲み干し、ピエールは上機嫌でバーを去りました。
 そうしてベンジャミン殺害計画は次のステップへと移り、13日後。ついに決行の時が訪れ――

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