最愛の人が、元婚約者にしつこく復縁を迫られているらしい

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
12 / 30

第5話 回想~2人の出会いと恋と、決意~ ベンジャミン視点(3)

しおりを挟む
((俺は、好きになってるんだ。ルーシー様を、異性として))

 それは、関係を持ち始めてから2か月目のこと。いつものように彼女と過ごしている際に、心の中に芽生えた感情に気が付いた。

 あの日から現在まで毎日何かしらの形で一緒に過ごしていて、自死を思い留まってくれてからは、彼女に関することも沢山知れるようになったこと。
 それを通して、思いやりと優しさのある、可愛らしい人なのだと理解したこと。

 それらによって、わずか2か月という短期間で恋に落ちてしまったのだ。
 とはいえ――

((ルーシー様は、あのようなことがあったばかりだ。そういう感情は、伏せておいた方がいいな))

 ――ピエールの一件がある。そこでこの気持ちを打ち明けずにいようと決めていた、のだけれど。その一か月後、予想外の形で俺達は一歩踏み出すことになるのだった。

「…………べんじゃみ、さま……。だいすき、です…………」

 切っ掛けは、馬車の中での出来事。その日の俺達は少しばかり遠方でピクニックを行い、ルーシーは早起きをしてランチとおやつを作ってくれていたため、帰路で眠ってしまった。そのため用意していた毛布をかけていたら、そんな寝言が聞こえてきたのだ。

「……おつた、え……。たい、な……」

「…………で、も……。こわ、……な……」

 彼女は俺と同じように、一緒に過ごすうちに俺を意識してくれるようになっていた。しかしながら『自分は一度婚約して、捨てられたばかり』『こんな自分が想いを告げたら迷惑なのでは?』『もう会ってもらえなくなるのでは?』と感じ、言い出せずにいたのだった。

「…………そっか、そうだったんだね。だったら――」

 躊躇わなくてもいい。俺はその日に想いを告げ、そうしてひょんな形で交際が始まったのだった。
 そして俺達は両想いなので、すでに婚約結婚が頭にあったのだけれど……。俺には懸念材料があった。

『……どうか、止めないでください……。もう、生きているのが辛いんです……』
『……お願いします……。放っておいてください……。このまま、死なせてください……』

 我が家(いえ)には――俺には平均的な力しかなく、もしも大きな相手から何かを受けた場合は、防げない可能性が高い。またあのようにルーシーがボロボロになり、今度こそ死を選んでしまう可能性が大いにあった。

((そんなことは……。絶対に、あってはならない……!))

 そのため待たせるのは忍びなかったのだけれど、それを解決できるまでプロポーズはしない、と決める。そうして俺は、力を得る方法を探し始めて――

しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。

田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。 ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。 私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。 王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

婚約破棄にはなりました。が、それはあなたの「ため」じゃなく、あなたの「せい」です。

百谷シカ
恋愛
「君がふしだらなせいだろう。当然、この婚約は破棄させてもらう」 私はシェルヴェン伯爵令嬢ルート・ユングクヴィスト。 この通りリンドホルム伯爵エドガー・メシュヴィツに婚約破棄された。 でも、決して私はふしだらなんかじゃない。 濡れ衣だ。 私はある人物につきまとわれている。 イスフェルト侯爵令息フィリップ・ビルト。 彼は私に一方的な好意を寄せ、この半年、あらゆる接触をしてきた。 「君と出会い、恋に落ちた。これは運命だ! 君もそう思うよね?」 「おやめください。私には婚約者がいます……!」 「関係ない! その男じゃなく、僕こそが君の愛すべき人だよ!」 愛していると、彼は言う。 これは運命なんだと、彼は言う。 そして運命は、私の未来を破壊した。 「さあ! 今こそ結婚しよう!!」 「いや……っ!!」 誰も助けてくれない。 父と兄はフィリップ卿から逃れるため、私を修道院に入れると決めた。 そんなある日。 思いがけない求婚が舞い込んでくる。 「便宜上の結婚だ。私の妻となれば、奴も手出しできないだろう」 ランデル公爵ゴトフリート閣下。 彼は愛情も跡継ぎも求めず、ただ人助けのために私を妻にした。 これは形だけの結婚に、ゆっくりと愛が育まれていく物語。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

婚約破棄された私は、世間体が悪くなるからと家を追い出されました。そんな私を救ってくれたのは、隣国の王子様で、しかも初対面ではないようです。

冬吹せいら
恋愛
キャロ・ブリジットは、婚約者のライアン・オーゼフに、突如婚約を破棄された。 本来キャロの味方となって抗議するはずの父、カーセルは、婚約破棄をされた傷物令嬢に価値はないと冷たく言い放ち、キャロを家から追い出してしまう。 ありえないほど酷い仕打ちに、心を痛めていたキャロ。 隣国を訪れたところ、ひょんなことから、王子と顔を合わせることに。 「あの時のお礼を、今するべきだと。そう考えています」 どうやらキャロは、過去に王子を助けたことがあるらしく……?

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

処理中です...