最愛の人が、元婚約者にしつこく復縁を迫られているらしい

柚木ゆず

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第5話 回想~2人の出会いと恋と、決意~ ベンジャミン視点(1)

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「っ!? 何をやっているのですかっ!? 貴方は!!」

 それは、雨が強い夕方のことだった。その日、偶然通りかかった道の傍――橋の上にずぶ濡れの女性がいて、しかも飛び降りようとし始めた。
 そこで俺は慌てて馬車を飛び出し、幸いにも身を投げる寸前で止めることができたのだった。

「……どうか、止めないでください……。もう、生きているのが辛いんです……」

 どうにか防いだ後、聞こえてきた声――初めて聞いた、ルーシーの声。それは今にも消えてしまいそうなほど小さく、絶望しか宿っていなかった。
 …………そうなるのは、無理もない。

「……お願いします……。放っておいてください……。このまま、死なせてください……」

 俺を納得させるために、語ってくれた出来事。愛する人の裏切り。それによる強制的な婚約解消に加えて、

『お前のせいで貴重な時間を失ってしまったじゃないか!!』
『お前に惑わされたせいで3年間が無駄になったんだぞ!! この時間ドロボウめ!!』
『あの日お前に出会わなければよかった! 最悪だ!!』
『この3年間ほど無駄だった時間はない!! 時間を戻せるなら今すぐ戻したい!!』
『二度と僕に関わるなよ! この出来損ない!!』
『……どうしてお前のようなゴミがこの世に生まれ、そんなゴミとわざわざ出会ってしまったんだろうな。運命を呪いたい気分だ』

 自分を被害者だと思い込み、数々の暴言を浴びせられる。
 こんなことが僅か1日の間に起きてしまったのだから、仕方のないことだった。

「……私は今、目の前が真っ暗なんです……。このままで居るのが、つらい……。もう、なにも考えたくない……。楽に、なりたいです……。だから、お願いします……。その手を、離してください……」
「………………申し訳ございません。それはできません」

 だって、彼女に非は全くない。ルーシーこそが被害者なんだ。

 なんとか、してあげたかった。

 それは彼女が望まないことだと、分かってはいた。余計なことなのだと、自分勝手なことなのだとも、分かってもいた。
 でも、どうしても放っておけなかった。そのままになんて、できなかった。

 あんな暗く寂しい瞳をしたまま、心が氷のように冷たくなったまま、人生を終えて欲しくなった。

 だから――


「3週間――いや、2週間、時間をください」

「この世の中にはたくさんの、楽しいこと、幸せなことがあります。貴方にもそう思ってもらえるようにしてみせますから、死ぬのは少し待ってください」


 ――俺はそう頼み、恐らく彼女は、一度付き合えば死なせてくれると考えたのだろう。逡巡があったものの頷いてくれて、こうして俺達の関係は始まったのだった。
 そして――

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