4 / 30
第1話 元婚約者・ピエールの奇行 ベンジャミン視点(3)
しおりを挟む
「…………はい。あの方は、現れないと思います」
『たとえばこのあと2人で外出した場合、ピエールが待ち構えている可能性はあるのか? それを知りたいんだけど、分かるかな?』。そう問いかけてみたら、ルーシーの首はゆっくりと左右に振られた。
「あれこれと独りで仰られていた際に、『今日はこのあと忙しい』『明日まで会えないのが残念だ』というものが出ていましたので。何かしらの理由があって、そういった余裕はないようです」
「そっか。だとしたら、今日の対応は難しそうだね」
くだんの『武器』を使う際は、他者の耳や目がないところで。という使用条件がある。なので人気(ひとけ)がない場所に誘い込みたかったのだけれど、それなら無理だ。
「じゃあ明日、ふてぶてしくココを訪れた時に行おうか。ルーシー、申し訳ない。その際には不愉快極まりない思うけれど、相手をするのは今日までのように門の付近ではなく、お屋敷の中――応接室に、通してもらいたいんだ」
「畏まりました。ベンジャミン様、お気遣い痛み入ります」
彼女は穏やかに目を細めてくれて、そのあと、可愛らしく首が少し傾いた。
「その際他に、私が行うべきことはございますか? それと何かお手伝いできることがありましたら、是非させてください」
「ありがとう、ルーシー。他にはなくて、頼みたいこともないんだよ」
やって来たピエールを、邸内にある応接室に――第三者が居ない場所に連れていく。必要なのはソレのみで、そのため以上で確認作業は終了。その後は明日の行動内容をもう数点伝えて、程なく全ての作業が完了となった。
「これで、話すことはないね。それじゃあこれからは、予定していた時間を過ごそうか」
「はい……っ。ちょうどマドレーヌが焼き上がる頃ですので、少々お待ちください」
今日俺がここを訪れたのは、愛する人とお茶やお喋りを楽しむため。なのでここからはそれらを満喫することにして、
「ベンジャミン様。こちら、焼き立てのマドレーヌです」
「ありがとう。いただくよ」
お菓子作りが趣味の彼女の、自慢の焼き菓子を味わったり。
「美味しいお菓子と紅茶をありがとう。……これは、そのお返しだよ」
「えっ!? あっ、ありがとうございますっ。こちらは………………わぁ、綺麗……っ」
「隣国を訪れた際に、君にぴったりなネックレスを見つけたんだ。気に入ってもらえて光栄だよ」
偶然見つけたプレゼントを渡して、喜んでもらったり。
すっかり不安がなくなったルーシーと一緒に、幸せな時間をたっぷりと楽しんだのだった。
――こんな風に、どんな時でも彼女が笑っていられるように――。
明日お前と、色々な話をしようと思う。覚悟していろよ、ピエール。
『たとえばこのあと2人で外出した場合、ピエールが待ち構えている可能性はあるのか? それを知りたいんだけど、分かるかな?』。そう問いかけてみたら、ルーシーの首はゆっくりと左右に振られた。
「あれこれと独りで仰られていた際に、『今日はこのあと忙しい』『明日まで会えないのが残念だ』というものが出ていましたので。何かしらの理由があって、そういった余裕はないようです」
「そっか。だとしたら、今日の対応は難しそうだね」
くだんの『武器』を使う際は、他者の耳や目がないところで。という使用条件がある。なので人気(ひとけ)がない場所に誘い込みたかったのだけれど、それなら無理だ。
「じゃあ明日、ふてぶてしくココを訪れた時に行おうか。ルーシー、申し訳ない。その際には不愉快極まりない思うけれど、相手をするのは今日までのように門の付近ではなく、お屋敷の中――応接室に、通してもらいたいんだ」
「畏まりました。ベンジャミン様、お気遣い痛み入ります」
彼女は穏やかに目を細めてくれて、そのあと、可愛らしく首が少し傾いた。
「その際他に、私が行うべきことはございますか? それと何かお手伝いできることがありましたら、是非させてください」
「ありがとう、ルーシー。他にはなくて、頼みたいこともないんだよ」
やって来たピエールを、邸内にある応接室に――第三者が居ない場所に連れていく。必要なのはソレのみで、そのため以上で確認作業は終了。その後は明日の行動内容をもう数点伝えて、程なく全ての作業が完了となった。
「これで、話すことはないね。それじゃあこれからは、予定していた時間を過ごそうか」
「はい……っ。ちょうどマドレーヌが焼き上がる頃ですので、少々お待ちください」
今日俺がここを訪れたのは、愛する人とお茶やお喋りを楽しむため。なのでここからはそれらを満喫することにして、
「ベンジャミン様。こちら、焼き立てのマドレーヌです」
「ありがとう。いただくよ」
お菓子作りが趣味の彼女の、自慢の焼き菓子を味わったり。
「美味しいお菓子と紅茶をありがとう。……これは、そのお返しだよ」
「えっ!? あっ、ありがとうございますっ。こちらは………………わぁ、綺麗……っ」
「隣国を訪れた際に、君にぴったりなネックレスを見つけたんだ。気に入ってもらえて光栄だよ」
偶然見つけたプレゼントを渡して、喜んでもらったり。
すっかり不安がなくなったルーシーと一緒に、幸せな時間をたっぷりと楽しんだのだった。
――こんな風に、どんな時でも彼女が笑っていられるように――。
明日お前と、色々な話をしようと思う。覚悟していろよ、ピエール。
0
お気に入りに追加
887
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。
田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。
ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。
私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。
王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。

婚約破棄にはなりました。が、それはあなたの「ため」じゃなく、あなたの「せい」です。
百谷シカ
恋愛
「君がふしだらなせいだろう。当然、この婚約は破棄させてもらう」
私はシェルヴェン伯爵令嬢ルート・ユングクヴィスト。
この通りリンドホルム伯爵エドガー・メシュヴィツに婚約破棄された。
でも、決して私はふしだらなんかじゃない。
濡れ衣だ。
私はある人物につきまとわれている。
イスフェルト侯爵令息フィリップ・ビルト。
彼は私に一方的な好意を寄せ、この半年、あらゆる接触をしてきた。
「君と出会い、恋に落ちた。これは運命だ! 君もそう思うよね?」
「おやめください。私には婚約者がいます……!」
「関係ない! その男じゃなく、僕こそが君の愛すべき人だよ!」
愛していると、彼は言う。
これは運命なんだと、彼は言う。
そして運命は、私の未来を破壊した。
「さあ! 今こそ結婚しよう!!」
「いや……っ!!」
誰も助けてくれない。
父と兄はフィリップ卿から逃れるため、私を修道院に入れると決めた。
そんなある日。
思いがけない求婚が舞い込んでくる。
「便宜上の結婚だ。私の妻となれば、奴も手出しできないだろう」
ランデル公爵ゴトフリート閣下。
彼は愛情も跡継ぎも求めず、ただ人助けのために私を妻にした。
これは形だけの結婚に、ゆっくりと愛が育まれていく物語。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです
よどら文鳥
恋愛
貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。
どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。
ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。
旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。
現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。
貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。
それすら理解せずに堂々と……。
仕方がありません。
旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。
ただし、平和的に叶えられるかは別です。
政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?
ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。
折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

婚約破棄された私は、世間体が悪くなるからと家を追い出されました。そんな私を救ってくれたのは、隣国の王子様で、しかも初対面ではないようです。
冬吹せいら
恋愛
キャロ・ブリジットは、婚約者のライアン・オーゼフに、突如婚約を破棄された。
本来キャロの味方となって抗議するはずの父、カーセルは、婚約破棄をされた傷物令嬢に価値はないと冷たく言い放ち、キャロを家から追い出してしまう。
ありえないほど酷い仕打ちに、心を痛めていたキャロ。
隣国を訪れたところ、ひょんなことから、王子と顔を合わせることに。
「あの時のお礼を、今するべきだと。そう考えています」
どうやらキャロは、過去に王子を助けたことがあるらしく……?
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる