最愛の人が、元婚約者にしつこく復縁を迫られているらしい

柚木ゆず

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第1話 元婚約者・ピエールの奇行 ベンジャミン視点(3)

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「…………はい。あの方は、現れないと思います」

『たとえばこのあと2人で外出した場合、ピエールが待ち構えている可能性はあるのか? それを知りたいんだけど、分かるかな?』。そう問いかけてみたら、ルーシーの首はゆっくりと左右に振られた。

「あれこれと独りで仰られていた際に、『今日はこのあと忙しい』『明日まで会えないのが残念だ』というものが出ていましたので。何かしらの理由があって、そういった余裕はないようです」
「そっか。だとしたら、今日の対応は難しそうだね」

 くだんの『武器』を使う際は、他者の耳や目がないところで。という使用条件がある。なので人気(ひとけ)がない場所に誘い込みたかったのだけれど、それなら無理だ。

「じゃあ明日、ふてぶてしくココを訪れた時に行おうか。ルーシー、申し訳ない。その際には不愉快極まりない思うけれど、相手をするのは今日までのように門の付近ではなく、お屋敷の中――応接室に、通してもらいたいんだ」
「畏まりました。ベンジャミン様、お気遣い痛み入ります」

 彼女は穏やかに目を細めてくれて、そのあと、可愛らしく首が少し傾いた。

「その際他に、私が行うべきことはございますか? それと何かお手伝いできることがありましたら、是非させてください」
「ありがとう、ルーシー。他にはなくて、頼みたいこともないんだよ」

 やって来たピエールを、邸内にある応接室に――第三者が居ない場所に連れていく。必要なのはソレのみで、そのため以上で確認作業は終了。その後は明日の行動内容をもう数点伝えて、程なく全ての作業が完了となった。

「これで、話すことはないね。それじゃあこれからは、予定していた時間を過ごそうか」
「はい……っ。ちょうどマドレーヌが焼き上がる頃ですので、少々お待ちください」

 今日俺がここを訪れたのは、愛する人とお茶やお喋りを楽しむため。なのでここからはそれらを満喫することにして、

「ベンジャミン様。こちら、焼き立てのマドレーヌです」
「ありがとう。いただくよ」

 お菓子作りが趣味の彼女の、自慢の焼き菓子を味わったり。

「美味しいお菓子と紅茶をありがとう。……これは、そのお返しだよ」
「えっ!? あっ、ありがとうございますっ。こちらは………………わぁ、綺麗……っ」
「隣国を訪れた際に、君にぴったりなネックレスを見つけたんだ。気に入ってもらえて光栄だよ」

 偶然見つけたプレゼントを渡して、喜んでもらったり。
 すっかり不安がなくなったルーシーと一緒に、幸せな時間をたっぷりと楽しんだのだった。




 ――こんな風に、どんな時でも彼女が笑っていられるように――。
 明日お前と、色々な話をしようと思う。覚悟していろよ楽しみにしていろよ、ピエール。

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