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プロローグ 喜びと戸惑い 俯瞰視点
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「カミーユ様、お久しぶりです……っ。改めて、最優秀賞受賞おめでとうございます……!」
例年よりも少し早く夏が顔を出し始めている、6月1日。国内東部にある、花の街として有名な『ハーティック』。その中央にあるコスモスを模した噴水の前で立っていたアルマは、大人びた落ち着いた雰囲気を放つ『貴公子』然とした男性を目にするや、声を弾ませながら満面の笑みを浮かべました。
「久しぶりだね、アルマ。どうもありがとう」
動きに合わせて絹のようなブロンドがさらさらと揺れる、品よく頬を緩めた男性。彼は、カミーユ・ライアリル。ライアリル伯爵家の嫡男であり、フェニアック伯爵令嬢アルマの婚約者。そして――。
1・5か月前に快挙を成し遂げ、夢の一つを叶えた者です。
南側の隣国『デザリア』で5年に1度開かれる、世界でもっともレベルの高い絵画コンクールと称される『ソレイユ』。
そこでカミーユは、水彩画部門にて最高位の賞を獲得。しかもソレは『この国ラックス初の受賞』であり『ソレイユ史上最年少の19歳で受賞』だったため、国内外で一躍有名人と――知らない者はいない、と言えるほどの有名人となっていたのでした。
そのため受賞直後から多忙を極め、手紙のやり取りは頻繁に行っていたものの、以降まったく会えていなかった。それ故にアルマの声は弾み、笑顔が溢れているのです。
「アルマ、何十日も待たせてしまい本当に済まなかった。……君は僕の最愛の人で、僕にあの色を与えてくれた人。まずはお互いに満足するまで一緒に居たかったのだけれどね。ノーマークの男がいきなり最高賞を獲ったものだから、国内外が興味津々で予想以上に自由にさせてくれなかったんだよ」
カミーユ様は5歳の時に水彩画に魅了され、以降活動を続けてきました。ですがスポットライトを浴びることは一度もなく、中間程度に位置する賞の常連となっていました。
――安定性はあるもののパッとしない――。
という評価を、与えられてしまっていました。
ですがそんな評価だった人間が突然世界のトップを獲ったため、国内はもとより国外でも大きな話題となり、王族の依頼などにより各地を休みなく飛び回る羽目になっていたのです。
「でもそれもようやく終わって、今日からはずっと一緒に居られる。これまでできなかったやりたいことを、思う存分やろうね」
「はいっ。たくさん、致しましょう。早速、始めましょうっ」
二人は1・5か月前までは頻繁に会っていたため、話したいことや一緒に行いたいことが沢山溜まっていました。ですので今日はその一つ目として、思い出の場所で――およそ1年前初めてデートをした場所で、デートをすることになっているのです。
「待たせたお詫びとして、しっかりとプランを練ってきているんだ。必ずや更に笑顔にして見せるから、楽しみにしていてね」
「はい、カミーユ様。楽しみにしております」
グリーンの柔らかなタレ目をふわりと細め、品よく差し出された手を取って二人は歩き出します。そうして1・5か月ぶりの、幸せな時間が始ま――ろうと、していた時でした。
アルマがおもわず石のように固まってしまう、そんな出来事が突如発生したのでした。
「アルマ様っ、どうしてその男と手を繋いでいらっしゃるのですか!? 『婚約者とは別れる』、そう約束してくださったのに!!」
例年よりも少し早く夏が顔を出し始めている、6月1日。国内東部にある、花の街として有名な『ハーティック』。その中央にあるコスモスを模した噴水の前で立っていたアルマは、大人びた落ち着いた雰囲気を放つ『貴公子』然とした男性を目にするや、声を弾ませながら満面の笑みを浮かべました。
「久しぶりだね、アルマ。どうもありがとう」
動きに合わせて絹のようなブロンドがさらさらと揺れる、品よく頬を緩めた男性。彼は、カミーユ・ライアリル。ライアリル伯爵家の嫡男であり、フェニアック伯爵令嬢アルマの婚約者。そして――。
1・5か月前に快挙を成し遂げ、夢の一つを叶えた者です。
南側の隣国『デザリア』で5年に1度開かれる、世界でもっともレベルの高い絵画コンクールと称される『ソレイユ』。
そこでカミーユは、水彩画部門にて最高位の賞を獲得。しかもソレは『この国ラックス初の受賞』であり『ソレイユ史上最年少の19歳で受賞』だったため、国内外で一躍有名人と――知らない者はいない、と言えるほどの有名人となっていたのでした。
そのため受賞直後から多忙を極め、手紙のやり取りは頻繁に行っていたものの、以降まったく会えていなかった。それ故にアルマの声は弾み、笑顔が溢れているのです。
「アルマ、何十日も待たせてしまい本当に済まなかった。……君は僕の最愛の人で、僕にあの色を与えてくれた人。まずはお互いに満足するまで一緒に居たかったのだけれどね。ノーマークの男がいきなり最高賞を獲ったものだから、国内外が興味津々で予想以上に自由にさせてくれなかったんだよ」
カミーユ様は5歳の時に水彩画に魅了され、以降活動を続けてきました。ですがスポットライトを浴びることは一度もなく、中間程度に位置する賞の常連となっていました。
――安定性はあるもののパッとしない――。
という評価を、与えられてしまっていました。
ですがそんな評価だった人間が突然世界のトップを獲ったため、国内はもとより国外でも大きな話題となり、王族の依頼などにより各地を休みなく飛び回る羽目になっていたのです。
「でもそれもようやく終わって、今日からはずっと一緒に居られる。これまでできなかったやりたいことを、思う存分やろうね」
「はいっ。たくさん、致しましょう。早速、始めましょうっ」
二人は1・5か月前までは頻繁に会っていたため、話したいことや一緒に行いたいことが沢山溜まっていました。ですので今日はその一つ目として、思い出の場所で――およそ1年前初めてデートをした場所で、デートをすることになっているのです。
「待たせたお詫びとして、しっかりとプランを練ってきているんだ。必ずや更に笑顔にして見せるから、楽しみにしていてね」
「はい、カミーユ様。楽しみにしております」
グリーンの柔らかなタレ目をふわりと細め、品よく差し出された手を取って二人は歩き出します。そうして1・5か月ぶりの、幸せな時間が始ま――ろうと、していた時でした。
アルマがおもわず石のように固まってしまう、そんな出来事が突如発生したのでした。
「アルマ様っ、どうしてその男と手を繋いでいらっしゃるのですか!? 『婚約者とは別れる』、そう約束してくださったのに!!」
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