上 下
34 / 37

第12話 ただの負けではなく、 クリスチアーヌ視点(2)

しおりを挟む
「いい、もの……?」
「そ、いいもの。わたしの後ろにご注目よ」

 トン、トン、トンと――。床を右手で3か所叩いて、パチンと指を鳴らす。それによって叩いた場所では虹色の魔法陣が浮かび上がるようになって――

「ガルルルルルルルルルルルル」

「ギギギギギギギギギギギギギ」

「ピィィィィィィィィィィィィ」

 ――10メートルくらいの大きな熊。15メートルくらいの大きなイカ。20メートルくらいの大きな鳥。『ローラッカスの森』の守護獣、『ロードトッグス』の守護獣、『ローズハットス山』の守護獣が登場したのだった。

「ガルルルルルルルルルルルルっ」
「ギギギギギギギギギギギギギっ」
「ピィィィィィィィィィィィィっ」
「しっかり、『毒』は抜けたみたいね。仕方ないとはいえ、手荒な真似をしちゃってごめんなさいね」
「………………守護獣が、生きている……!? どうなっているんだ!?」

 鍵を3つ集めたということは、3体を殺したということ。突然目の前にあり得ない、明らかな矛盾した光景が広がり、たまらずゾエルは頭を抱えた。

「これは幻覚じゃない!! 実在している!! どうなっているんだ!? 女っ、貴様はなにをしたんだ!?」
「ちょっと待ちなさいよ。ええと…………これを使ったのよ」

 わたしが収納用魔法陣から取り出したのは、長方形の粘土のようなもの。サミュエル様に使用した『複製粘土(ふくせいねんど)』――ではなくて、その翌年に完成させた改良品。

『……………………』
『? クリスチアーヌ様……? 眷族の残骸が、どうかしたのですか……?』
『……………………ちょっと気になることがあっただけです。なんでもありませんよ』

『??? そちらは……?』
『眷属は、魔王の力の一部。倒れた――邪な力が留まったままとなったら、この土地に悪影響を及ぼしかねません。この場が穢れないようにしているのですよ』


 ローラッカスの森では、その時。


『夜も更けてきましたが、上にある魔法があれば時間は関係ありません。このまま最後の目的地へと向かっても構いませんか?』
『もちろんです。クリスチアーヌ様さえよければ、喜んでお供をさせていただきます』
『ありがとうございます。ではまいり――すみません。そちらの剣を貸していただけますか』
『え? は、はい。どうぞ』
『それは…………ああっ。そちらも、穢れを払うものなのですね』
『ええ、そうなんです。この敵は先ほどの敵よりも巨大だった――穢れる可能性がさっきよりも高いと思いまして、追加で行っております』

 ロードトッグスでは、その時に。


『ピォォォォォォォォォ!! ピオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
『暴れて落とそうとしてるのかしら? けど、そんな暇はないわよ。だってもう、アンタは終わってるのだからね』
『ピォォオオオオオオオオオオオオ!! ピオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォピ!?』

 ローズハットスでは、空の上で蒸発させる瞬間に。複製粘土会を押し付け、守護獣の魂をコピーした器に入れていたのだった。

「くっつけたものの存在のコピーして、魂を入れられる……!? 守護獣を――神に近い存在を入れただなんて……。そんなこと、できるはずがない……」
「できているから、この子たちがここにいるんでしょう? あの頃のわたしはつい、ちょっとやりすぎちゃったのよ」


 ちなみにこれは81歳の頃に創った試作品的なもので、翌年の82歳の頃には完成版が誕生していてストックも複数個ある。ただしソレは機能を追求しすぎたせいで実用性は皆無となっており、五感および身体能力の異常な向上&不死&再生能力を持つ代わりに――人間の魂が入った瞬間魂が器の強さに耐え切れずに消滅してしまうので、サミュエル様に使うことはできない。


 人間の魂が消滅してしまうほど、強力な――異常な器だったから、神に近い存在でも普通に使うことができたのよね。
 しかもずっと居てくれないと困る子たちに、不死と再生能力をプラスすることもできた。色々あったけど、まあよかったんじゃないかしらね。

「……………………………………」
「そういうワケであらゆる災害も起きないし、大地が死んで大勢の国民が死ぬこともない。……ねえ、逆転勝利が覆ってしまって、どんな気持ち?」
「ち、ちくしょうぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ぁ、ぁああああああああああああああああああああああああ!! だっ、ダーズンさまぁああああああああああああああああああああああああああああ……………………」

 崩れ落ちながら、大絶叫。怒りと悲しみの大声を出して悔しがっている最中にタイムリミットが訪れてしまい、さようなら。
 眷族ゾエルは完全に砂となって消え去り――

 こうしてこの世界から完全に、魔王ダーズンの影は消えたのだった。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。-俺は何度でも救うとそう決めた-

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
 【HOTランキング第1位獲得作品】 --- 『才能』が無ければ魔法も使えない世界。 生まれつき、類まれな回復魔法の才能を持つ少年アスフィは、両親の期待を背負い、冒険者を目指して日々を過ごしていた。 しかし、その喜びも束の間、彼には回復魔法以外の魔法が全く使えないという致命的な欠点があった。 それでも平穏無事に暮らしていた日々。しかし、運命は突然、彼に試練を与える。 母親であるアリアが、生涯眠り続ける呪いにかかってしまう。 アスフィは、愛する母を目覚めさせるため、幼馴染で剣術の使い手レイラと共に、呪いを解く冒険の旅に出る。 しかしその旅の中で、彼は世界の隠された真実に辿り着く―― そして、彼の『才能』が持つ本当の力とは?  --------- 最後まで読んで頂けたら嬉しいです。   ♥や感想、応援頂けると大変励みになります。 完結しておりますが、続編の声があれば執筆するかもしれません……。

落ちこぼれ盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる ~エルフ♀と同居しました。安定収入も得たのでスローライフを満喫します~

テツみン
ファンタジー
アスタリア大陸では地球から一万人以上の若者が召喚され、召喚人(しょうかんびと)と呼ばれている。 彼らは冒険者や生産者となり、魔族や魔物と戦っていたのだ。 日本からの召喚人で、生産系志望だった虹川ヒロトは女神に勧められるがまま盾職人のスキルを授かった。 しかし、盾を売っても原価割れで、生活はどんどん苦しくなる。 そのうえ、同じ召喚人からも「出遅れ組」、「底辺職人」、「貧乏人」とバカにされる日々。 そんなとき、行き倒れになっていたエルフの女の子、アリシアを助け、自分の工房に泊めてあげる。 彼女は魔法研究所をクビにされ、住み場所もおカネもなかったのだ。 そして、彼女との会話からヒロトはあるアイデアを思いつくと―― これは、落ちこぼれ召喚人のふたりが協力し合い、異世界の成功者となっていく――そんな物語である。

魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎
ファンタジー
 死後、神様に頼まれて転生したが特にチートな加護も無く、魔王を倒すのに十年掛かった。 英雄の一人ではあったので第二の人生を愉しもうかと思ったが、『狡兎死して走狗煮らる』とも言う。 そこで地方で内政に励む事にして、トロフィー代わりに砂漠の緑化を目標に定めた男の物語である。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

処理中です...