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第10話 魔王ダーズンの復活 クリスチアーヌ視点(2)

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「メギトートル様、ゾルゾハーズ様。貴方がたに最大級の賛辞をお贈りします」

 突如現れたラズソルド宰相は、サミュエル様の問いかけを無視。わたし、サミュエル様の順に視線を動かし、慇懃無礼に一礼した。

「賛辞……? 宰相閣下、どういうことですか……?」
「もう取り返しにつかない状況になり、後ろには戻れなくなってしまったことですしね。ここまでの『お礼』も兼ねて、教えてあげましょうか。この騒動の、真実をねぇ」
「しんじつ……? なにを、言って……」
「おっと、そういえば自己紹介がまだでしたね。わたくしはこの国の宰相ジェラール・ラズソルド――と名乗っていますが、それは仮の姿。真の名は、『ゾエル』。唯一無二の、魔王ダーズン様の眷属なのですよ!!」

 言下ラズソルドの身体がべちゃりと溶け、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ。黒の液体が蠢くかのように気持ち悪く動いて、再び人の姿を取ると――漆黒の翼を生やした、全身真っ黒の異形が現れたのだった。

「この身体になるのは、久方ぶりですね。いやはや。変身中は完全に『人間』となってしまう故、居心地が悪かったですよ。すこぶるね」
「……化け物、だったのか……。いつからだ……? いつから宰相を名乗っていた……?」
「貴方がたが生まれる前から――魔王様が討たれてしまった直後から、ですよ。……ダーズン様に復活いただくには、創造していただいた際にダーズン様から受けた命を実行せねばなりませんからね。この世界に生まれ落ちてすぐ当時の宰相を殺し、入れ替わっていたのですよ」

 そうして当時の宰相となり、加齢によって引退する頃になると後継者を指名し、その者を密かに殺して変身して再び宰相となる。今日までそう繰り返してきたみたい。

「ダーズンからの命令? なんなんだ、それは……?」
「忌々しい、汚物同然のゴミカス共――。偶々『魔』に対する特効を持っていた本来は圧倒的な格下・『勇者』によって瀕死の状態にされてしまい、それによって大した力を持たぬ『聖女』如きに封印されてしまったダーズン様。不運が重なったことによって起きてしまった封印を解除する、それがダーズン様の目的でありわたくしの使命なのですよ」

 魔王ダーズンは勇者と聖女に討たれ、死の間際に再誕の魔術を施した――。書物にするされていたあの話は、まっかな嘘。
 実際は戦闘によって大怪我を負い、酷く衰弱したタイミングで『聖女』の力によって封印されていた――黒い繭にされていたのだった。

「内容が全然違うじゃないか……。なんであの書物には、あんなことが書かれて――まさか……」
「そう、そのまさかですよ。あれはわたくしが偽装したもの。勇者と聖女が書き、遺したメッセージはとおの昔に燃やされているのですよ!」


 ――魔王ダーズンは僕と聖女によって封印されました――。

 ――ヤツは強力な封印によって縛られていますし、この国の『守護獣』の力を借りて更に別の次元へと隔離しています。残念ながらヤツは生きており、封印の中で外に出るチャンスを伺っているのでしょうが、自力で出ることはできませんので安心してください――。

 ――ただ。聖女の力は月齢など様々なものが影響し合うため、1000年に1度、ほんの少しだけ封印の力が弱まるタイミングがあります――。

 ――その際は魔王ダーズンの魔力が外に漏れだし、空が漆黒に染まることになるでしょう――。

 ――とはいえ人体および精神、世界への被害は一切ありません。一週間ほどで収まりますので、申し訳ありませんが我慢をお願いします――。


 本当の内容は、そういったものだった。
 けれど勇者と聖女の死後ラズソルド宰相――ゾエルがすり替え、時間をかけて『こっちが本物だ』と刷り込んでいって、やがて偽物が本物だと認識されるようになってしまっていたのだった。

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