上 下
26 / 26

エピローグ 返って来た者達のその後 俯瞰視点

しおりを挟む
「……寒い……。暗い……」
「嫌だ……。誰か……。誰か……助けてくれ……」

 ラクライス家当主とその娘が追放されてから、1か月後の深夜。元当主ルイとその娘シビーユは、とある橋の下で肩を寄せ合い震えていました。

 ――一文無しで身分の証明もできない。その上、騒ぎを恐れて素顔は出せない――。

 そんな状況で雇ってくれる場所があるはずもなく、あの日捨てられてしまってからずっとこの調子。
 飲食店の裏にあるゴミ箱などを漁って残飯を食べ、夜になると新たな『家』に戻って眠る。
 といった生活を送っていたのです。

「……寒い……。暗い……」
「……さ、寒い……。寒い……」

 上には橋があるものの左右には何もありませんし、外であるため灯りもありません。そのため2人は暗闇の中で夜風を受け続けることになり、毎晩寒さと暗さと戦っていたのです。

「…………あの頃に、戻りたい……」
「…………屋敷に、戻りたい……」

 綺麗な服を着て美味しいものを食べていた、あの時に戻りたい。今夜も2人はそう願いますが、時間が巻き戻ってくれるはずがありません。
 いつまでも、このまま。
 ジャゾンに目をつけ離縁を命じたことにより、そんな娘を後押ししたことにより、シビーユとルイは一生涯――


 エクトルと出会わなかったシルヴィの人生を、経験し続けることになるのでした。


 ○○


「……明日も、見つかりませんように……!!」

 同時刻。ジャゾンはとある街の橋の下で、天に祈りを捧げていました。

 ――相手の油断により逃げ切れたものの、今頃血眼になって探している――。

 エクトルの狙い通りジャゾンはそう感じるようになり、エクトルの影に怯えていたのです。隣にいる、父と母と共に。

『『ジャゾン……!?』』
『父さん……!? 母さん……!?』

 親子の絆、なのでしょうか。逃走を始めてから1週間後、偶然3人は出会っていたのです。

『『お前のせいで大変なことになったじゃないか……!!』』
『それはこっちの台詞だ!! お前達が助けてくれたら……!!』

 お互い罪を擦り付け合い、掴み合いの喧嘩をしました。ですが喧嘩をしてももうどうにもなりませんし、1人よりも3人の方が良い。そんな理由で親子は行動を共にし始める、のですが――。
 父と母はジャゾンの自白によって、追放されてしまっています。そのため大したプラスにはならず、状況は殆ど変わっていないのです。

「どうか、お願いします……!」
「どうか、お願いします……!」
「どうか、お願いします……!」

 そのため、いつまでもこの調子。
 今日も明日もその先も、ずっと。死ぬことは怖く自害をできないため、その寿命が尽きるまでずっと、3人は激しく怯え続けることになったのでした――。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,332pt お気に入り:6,882

その子爵は、婚約者達に殺されてしまった娘を救うために時を逆行する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,369pt お気に入り:549

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

恋愛 / 完結 24h.ポイント:575pt お気に入り:6,911

迷惑ですから追いかけてこないでください!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:32,975pt お気に入り:1,164

聖女の祈りを胡散臭いものだと切り捨てた陛下は愚かでしたね。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:773pt お気に入り:643

貴方への手紙【短編集】

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:9,706pt お気に入り:322

処理中です...