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第8話 必要なものを得るために エクトル視点
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「ジャゾン!? 貴方様は、いったい……?」
「突然の来訪、ご無礼をお許しください。わたくしはラクライス家より――シビーユ様より遣わされた者でございます」
「! ラクライス侯爵家の……! そ、そうでございましたか!」
腹部が大きく出た、温厚そうに見えるだけの男性。ジャゾンの父でありオラワサル家当主の顔から、瞬く間に驚きとこわばりが消えた。
僕はラクライス家の関係者だという証を見せてはいないし、そんなものを持ってはいない。けれど『堂々とした態度』と『捕縛されたジャゾン』の2点が、その言葉に真実味を持たせた。
「めっ、滅相もございません! このたびはジャゾンが――愚息がご迷惑をおかけしております……! シビーユ様の具合はいかがでございますか……!?」
「幸いにも大事には至ってはおりません。ご安心ください」
なるほど。ジャゾンはシビーユに何かしらの危害を加え、逃走していることになっているんだね。
この『嘘』は、使える。あとで利用させてもらおう。
「そ、そうでございましたか……! もちろん我々も愚息を必死に捜索しておりまして! 無事発見となり安堵しております」
大きく息を吐き出した当主の目付きがすぐに変わり、僕の隣を――拘束されているジャゾンを睨みつける。そして流れるように厳しい叱責の言葉を連続でぶつけ、自分達に怒りを向けられないようにした。
「恩を仇で返すような人間は、クズ。生きる価値がないと言っても過言ではありません。どうぞお好きなようになさってくださいませ」
「シビーユ様は、厳しい対応を行うと仰っておりました。この男は恐らく今後、貴方様の目の前に現れる日は訪れないでしょう」
「当然の結果でございます。他にもご要望がございましたら、我々はなんなりと応えさせていただきます。是非、我々にお詫びをさせてください」
「では早速ですが、シビーユ様から預かったメッセージをお伝えいたします。5年前の、シルヴィ・ミウサンサに関する契約書――ミウサンサ子爵家と交わした書類を保管されていますよね?」
「え? は、はい。保管しております」
「今後の行動で必要になるそうでして。そちらを渡して欲しい、とのことでございます」
この手の書類はある種の『機密書類』で、第三者に渡す――それ以前に、開示することさえない。でも、『遣い』と『現状』が合わさると――
「承知いたしましたっ。少々お待ちくださいませ!」
――話は変わってくる。
あちらは少しでもご機嫌を取ろうとしているし、シビーユは仲間で悪用されるはずはないと思っている。それらの理由で当主はこの場を離れて十数分後に戻って来て、
「お待たせいたしました!」
「ありがとうございます」
指定した書類が両手で差し出され、僕はそれを受け取った。
「確かに頂戴いたしました。それではわたくしはシビーユ様のもとに、こちらとジャゾンを連れてゆきます」
「よろしくお願い致します! ジャゾン……しっかりと罪を償うのだぞ……!!」
当主は『息子が反感を買う真似はしない』と思いながらも、わが身可愛さで踏み込んではこない。シビーユを信じて激昂しているお芝居を眺めながらお屋敷を去り、シルヴィが待つ馬車へと戻ったのだった。
……これで、下準備は済んだ。
あとは、この書類とジャゾンを使って――
「突然の来訪、ご無礼をお許しください。わたくしはラクライス家より――シビーユ様より遣わされた者でございます」
「! ラクライス侯爵家の……! そ、そうでございましたか!」
腹部が大きく出た、温厚そうに見えるだけの男性。ジャゾンの父でありオラワサル家当主の顔から、瞬く間に驚きとこわばりが消えた。
僕はラクライス家の関係者だという証を見せてはいないし、そんなものを持ってはいない。けれど『堂々とした態度』と『捕縛されたジャゾン』の2点が、その言葉に真実味を持たせた。
「めっ、滅相もございません! このたびはジャゾンが――愚息がご迷惑をおかけしております……! シビーユ様の具合はいかがでございますか……!?」
「幸いにも大事には至ってはおりません。ご安心ください」
なるほど。ジャゾンはシビーユに何かしらの危害を加え、逃走していることになっているんだね。
この『嘘』は、使える。あとで利用させてもらおう。
「そ、そうでございましたか……! もちろん我々も愚息を必死に捜索しておりまして! 無事発見となり安堵しております」
大きく息を吐き出した当主の目付きがすぐに変わり、僕の隣を――拘束されているジャゾンを睨みつける。そして流れるように厳しい叱責の言葉を連続でぶつけ、自分達に怒りを向けられないようにした。
「恩を仇で返すような人間は、クズ。生きる価値がないと言っても過言ではありません。どうぞお好きなようになさってくださいませ」
「シビーユ様は、厳しい対応を行うと仰っておりました。この男は恐らく今後、貴方様の目の前に現れる日は訪れないでしょう」
「当然の結果でございます。他にもご要望がございましたら、我々はなんなりと応えさせていただきます。是非、我々にお詫びをさせてください」
「では早速ですが、シビーユ様から預かったメッセージをお伝えいたします。5年前の、シルヴィ・ミウサンサに関する契約書――ミウサンサ子爵家と交わした書類を保管されていますよね?」
「え? は、はい。保管しております」
「今後の行動で必要になるそうでして。そちらを渡して欲しい、とのことでございます」
この手の書類はある種の『機密書類』で、第三者に渡す――それ以前に、開示することさえない。でも、『遣い』と『現状』が合わさると――
「承知いたしましたっ。少々お待ちくださいませ!」
――話は変わってくる。
あちらは少しでもご機嫌を取ろうとしているし、シビーユは仲間で悪用されるはずはないと思っている。それらの理由で当主はこの場を離れて十数分後に戻って来て、
「お待たせいたしました!」
「ありがとうございます」
指定した書類が両手で差し出され、僕はそれを受け取った。
「確かに頂戴いたしました。それではわたくしはシビーユ様のもとに、こちらとジャゾンを連れてゆきます」
「よろしくお願い致します! ジャゾン……しっかりと罪を償うのだぞ……!!」
当主は『息子が反感を買う真似はしない』と思いながらも、わが身可愛さで踏み込んではこない。シビーユを信じて激昂しているお芝居を眺めながらお屋敷を去り、シルヴィが待つ馬車へと戻ったのだった。
……これで、下準備は済んだ。
あとは、この書類とジャゾンを使って――
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