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第4話 ソレは、最悪をもたらす言い訳 シルヴィ視点(1)
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「……前の婚約者にも、裏切られていたのですか? その方は、そんなにも酷い人だったのですか?」
気がついたらわたしは振り返り、ジャゾン様を見つめていました。
…………。
………………。
そう、だったのですか?
「! はいっ! そうなんですっ! 言い方は悪くなってしまうのですが……。人の悪い部分だけをかき集めたような、人間のクズでした」
…………。人の悪い部分だけをかき集めたような、人間のクズ。
……そうですか。
「これはかつて公表されたものでしてっ、調べていただけたら事実だとご理解いただけると思いますっ! 俺は以前、シルヴィ――ミウサンサ子爵令嬢のシルヴィという女と婚約を交わしていたのですっ!」
「……。そうだったのですね」
「当時の俺は彼女を愛し、彼女と夫婦になると確信していました。ですが……あの女は、増長してしまった……。伯爵家の一員となれたことで態度が大きくなり、我が家(いえ)の者や同格令嬢などなど…………様々な人間に無礼を働いた……。なかには、階段から突き飛ばされて怪我をして……なのに伯爵家の名を出され、泣き寝入りをした者までいたのです……」
「……。そうだったのですね」
「数々の悪事が発覚してすぐシルヴィ・ミウサンサとの縁を切りましたが、その尻拭いは俺がする羽目になって……。対応しお詫びをしていくたびに、あんな化け物を野放しにしてしまっていた罪悪感に苛まれ続け…………心身ともに、疲弊しました……」
それによって体調を崩してしまい、1か月間も寝たきり状態となっていた。その話を偶々耳にしたラクライス様が気の毒に思い『良い薬』を持って訪ねてきて、そちらが縁で恋仲となった。
らしい、です。
「そんなあまりにも酷いことがあって……。ようやく幸せを感じられると思ったら、あんなことになって……。散々なんです……。辛いんです……。もう嫌なんです……!」
「……。そうなのですね」
「苦しいことばかり経験して、死にたくない。別に、大富豪になりたいワケじゃないんです……。貴族ではなくなっても、いいんです……。俺はただただ……平穏に暮らしたい……。平均的な幸せを得て、せめて人並みに平和な人生を歩みたいだけなんです……」
「……。そうなのですね」
「ですので、どうか……どうか……お願いいたします……!! そう、仰らずに……! お手を差し伸べてください……! 俺に、生きるチャンスをください……!!」
ジャゾン様は地面に両膝をついて、大粒の涙を零しながらわたし達を見上げます。
……この姿だけを見たのであれば助けたくなりますが、わたしはその前にあったお話を――あまりにも酷い捏造をされたお話を聞いてしまっています。
手を差し伸べるはずが、ありません。
ですのでわたしは――
「そんな過去がおありだったのですね。でしたらそのお返しに、僕も一つ昔話をさせてさせていただきますね」
――え?
エクトル、さん……?
気がついたらわたしは振り返り、ジャゾン様を見つめていました。
…………。
………………。
そう、だったのですか?
「! はいっ! そうなんですっ! 言い方は悪くなってしまうのですが……。人の悪い部分だけをかき集めたような、人間のクズでした」
…………。人の悪い部分だけをかき集めたような、人間のクズ。
……そうですか。
「これはかつて公表されたものでしてっ、調べていただけたら事実だとご理解いただけると思いますっ! 俺は以前、シルヴィ――ミウサンサ子爵令嬢のシルヴィという女と婚約を交わしていたのですっ!」
「……。そうだったのですね」
「当時の俺は彼女を愛し、彼女と夫婦になると確信していました。ですが……あの女は、増長してしまった……。伯爵家の一員となれたことで態度が大きくなり、我が家(いえ)の者や同格令嬢などなど…………様々な人間に無礼を働いた……。なかには、階段から突き飛ばされて怪我をして……なのに伯爵家の名を出され、泣き寝入りをした者までいたのです……」
「……。そうだったのですね」
「数々の悪事が発覚してすぐシルヴィ・ミウサンサとの縁を切りましたが、その尻拭いは俺がする羽目になって……。対応しお詫びをしていくたびに、あんな化け物を野放しにしてしまっていた罪悪感に苛まれ続け…………心身ともに、疲弊しました……」
それによって体調を崩してしまい、1か月間も寝たきり状態となっていた。その話を偶々耳にしたラクライス様が気の毒に思い『良い薬』を持って訪ねてきて、そちらが縁で恋仲となった。
らしい、です。
「そんなあまりにも酷いことがあって……。ようやく幸せを感じられると思ったら、あんなことになって……。散々なんです……。辛いんです……。もう嫌なんです……!」
「……。そうなのですね」
「苦しいことばかり経験して、死にたくない。別に、大富豪になりたいワケじゃないんです……。貴族ではなくなっても、いいんです……。俺はただただ……平穏に暮らしたい……。平均的な幸せを得て、せめて人並みに平和な人生を歩みたいだけなんです……」
「……。そうなのですね」
「ですので、どうか……どうか……お願いいたします……!! そう、仰らずに……! お手を差し伸べてください……! 俺に、生きるチャンスをください……!!」
ジャゾン様は地面に両膝をついて、大粒の涙を零しながらわたし達を見上げます。
……この姿だけを見たのであれば助けたくなりますが、わたしはその前にあったお話を――あまりにも酷い捏造をされたお話を聞いてしまっています。
手を差し伸べるはずが、ありません。
ですのでわたしは――
「そんな過去がおありだったのですね。でしたらそのお返しに、僕も一つ昔話をさせてさせていただきますね」
――え?
エクトル、さん……?
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