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第2話 幸せな日々は、その日一変する 俯瞰視点(4)

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((大丈夫、だよな……? 執務室の中には、聞こえていないよな……!?)
『…………お父様。今の音と声、聞こえましたか?』
『ああ、聞こえた。知らぬ間に、ジャゾン君が盗み聞きをしていたみたいだな』

 残念ながら、『大丈夫』ではありませんでした。
 その位置で執務室の中の声が聞こえるのなら、当然その位置で発生した音は執務室の中でも聞こえる。シビーユと彼女の父ルイは、扉の向こうに潜んでいる人物を把握していました。

『……きっと、わたくし達のやり取りは殆ど聞かれているのでしょうね』
『だろうな』
『…………なら、仕方がありませんわね。少しずつ食事に毒を混ぜて、分からないように殺してあげよう思っていたけど――。それは中止。別のやり方で病死に見せかけましょう』
((!! マズイ……! 捕まったらマズイ……!!))「うっ、うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 その方法は分からないものの、捕まったら悲惨な最期が待っている。そう確信したジャゾンは悲鳴をあげながら走り出し、

「ジャゾン様!? どうなされま――きゃあ!?」
「どっ、どけ!! そこをどけえ!! 邪魔をするなぁああああああああああああああああ!!」

 進路にいる使用人達を突き飛ばしながら廊下を駆け、そのままお屋敷を飛び出します。

「ジャゾン様!? なっ、なにがあったのでございますか!?」
((馬車に乗って逃げ――駄目だ馬車に乗っている暇なんてない!! このまま走って逃げるしかない! 走らないとっ! 走って逃げないと! 走って逃げるっっ!! 安全なところにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!))

 追っ手を撒くために彼はひたすら走り、途中で偶然見つけた老人から頭巾を奪って顔を隠し、匿ってもらうため実家を目指し――たいところでしたが、ジャゾンの父は所謂親バカであるものの我が身が一番大事なタイプ。侯爵家を敵に回すくらいなら息子を売るため家族を頼ることができず、2日間必死に逃走しながら助けてくれそうな人を探していたのです。

『っ、この人達ならきっと……! そちらのお二方!! お願いしますっ、助けてくださいっ!!』

 そんな時偶然にも、シルヴィとエクトルを発見。それなりに金も力もあるであろう隣国の住人を見つけたジャゾンは、隣国に逃がしてもらうため――あわよくば匿ってもらうために、あのように助けて求めていたのでした。
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