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第1話 奇妙な出会い シルヴィ視点(2)
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(ジャゾン……? ここにいる、彼が……?)
エクトルさんが困惑するのも、無理はありません。
あの方は、伯爵家の人間――あのあとラクライス家に入ったはずなので、今は侯爵家の人間。貴族、しかも高位貴族が、単身で移動しているなんてあり得ない話なのですから。
(わたしも真っ先にその事実が頭を過ぎり、よく似ている人なのだと思いました。ですがやっぱり、そうとしか思えないのですよ)
顔が同じ。目の色も同じ。髪の色も同じ。声質も同じ。こういった共通点がありますし、背は170程度――当時166センチくらいだったので、背丈に関してもおかしな点はない。
こんなにも共通項が揃っているので、不自然な点は多々ありますが、本物と判断しました。
(……なるほど……。そこに加えて、あの目。こんなにも一致している人はまずいないね)
(はい。確実に本人でして――なのにわたしだと気付かないのは、わたしの姿が当時とは大きく異なっているからなのでしょうね)
宿屋の仕事は力仕事が多く自然と当時よりも筋肉がつきましたし、食事用の野菜を菜園で育てていて日焼けもしています。しかも動きやすいように髪はスーパーロングからボブにしていて、たとえ当時の家族が見ても分からないと思います。
(確かに、ずっと見ていないと気付かないだろうね。……まさか、こんな形で元凶と再会するだなんてね。夢みたいだよ)
(わたしもです……)
わたしは貴族ではなくなり、さらには隣国の人間となりました。住む世界がまるで違う人と会うことなんて、二度とないと思っていました。
(しかもそんな人が、必死にお願いをしてきている。なにもかも予想外で、動揺してしまっています)
(そうなってしまうのは当然だよ。……そんな人間を見ているのは、辛いよね。すぐに離れよう)
(ありがとうございます。でもその前に、助けを求める理由を知りたいと思っています)
侯爵家の人間がこんな場所でたった一人で行動していて、ここまで取り乱しているだなんて、原因の想像がつきません。
異様な出来事の理由が気になり、詳細を知らずにはいられなくなりました。
(それもそうだね。じゃあ確認してみるよ)
そうしてわたし達はヒソヒソ話を終え、エクトルさんが『そんな風になっている』経緯を尋ねてくれました。
「お召し物を見るに、貴方様はこの国の貴族――それも、上位の貴族様ですよね?」
「…………隠しても意味がない、むしろ逆効果だよな……。はっ、はい! そうでございますっ! 現在はラクライス侯爵家に籍を置くっ、オラワサル伯爵家に生まれた人間でございますっ!」
「やはり、そうでしたか。そんな方がどうして、僕らのような平民――それも他国の平民に、助けを求めるのですか?」
説明をして欲しい。そう告げると、ジャゾン様は――。何かがあった、その際の状況を思い出したのでしょう。
激しく身体を震わせるようになり、同じく激しく震える唇を懸命に動かして――
「お、俺は……。このままだと、殺されてしまうんです……! 妻に……!!」
――まずは、信じられないことを発して……。
怯えながら、当時の状況を語り始めたのでした。
エクトルさんが困惑するのも、無理はありません。
あの方は、伯爵家の人間――あのあとラクライス家に入ったはずなので、今は侯爵家の人間。貴族、しかも高位貴族が、単身で移動しているなんてあり得ない話なのですから。
(わたしも真っ先にその事実が頭を過ぎり、よく似ている人なのだと思いました。ですがやっぱり、そうとしか思えないのですよ)
顔が同じ。目の色も同じ。髪の色も同じ。声質も同じ。こういった共通点がありますし、背は170程度――当時166センチくらいだったので、背丈に関してもおかしな点はない。
こんなにも共通項が揃っているので、不自然な点は多々ありますが、本物と判断しました。
(……なるほど……。そこに加えて、あの目。こんなにも一致している人はまずいないね)
(はい。確実に本人でして――なのにわたしだと気付かないのは、わたしの姿が当時とは大きく異なっているからなのでしょうね)
宿屋の仕事は力仕事が多く自然と当時よりも筋肉がつきましたし、食事用の野菜を菜園で育てていて日焼けもしています。しかも動きやすいように髪はスーパーロングからボブにしていて、たとえ当時の家族が見ても分からないと思います。
(確かに、ずっと見ていないと気付かないだろうね。……まさか、こんな形で元凶と再会するだなんてね。夢みたいだよ)
(わたしもです……)
わたしは貴族ではなくなり、さらには隣国の人間となりました。住む世界がまるで違う人と会うことなんて、二度とないと思っていました。
(しかもそんな人が、必死にお願いをしてきている。なにもかも予想外で、動揺してしまっています)
(そうなってしまうのは当然だよ。……そんな人間を見ているのは、辛いよね。すぐに離れよう)
(ありがとうございます。でもその前に、助けを求める理由を知りたいと思っています)
侯爵家の人間がこんな場所でたった一人で行動していて、ここまで取り乱しているだなんて、原因の想像がつきません。
異様な出来事の理由が気になり、詳細を知らずにはいられなくなりました。
(それもそうだね。じゃあ確認してみるよ)
そうしてわたし達はヒソヒソ話を終え、エクトルさんが『そんな風になっている』経緯を尋ねてくれました。
「お召し物を見るに、貴方様はこの国の貴族――それも、上位の貴族様ですよね?」
「…………隠しても意味がない、むしろ逆効果だよな……。はっ、はい! そうでございますっ! 現在はラクライス侯爵家に籍を置くっ、オラワサル伯爵家に生まれた人間でございますっ!」
「やはり、そうでしたか。そんな方がどうして、僕らのような平民――それも他国の平民に、助けを求めるのですか?」
説明をして欲しい。そう告げると、ジャゾン様は――。何かがあった、その際の状況を思い出したのでしょう。
激しく身体を震わせるようになり、同じく激しく震える唇を懸命に動かして――
「お、俺は……。このままだと、殺されてしまうんです……! 妻に……!!」
――まずは、信じられないことを発して……。
怯えながら、当時の状況を語り始めたのでした。
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