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4話(10)

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「なっ、君はなにを言っているんです!? 幸いまだ被害は出ていませんがっ! そのままだと近いうちに完全なる暴霊となり、周囲に甚大な被害が出るんですよっ!?」
「ああ、そうだな。だから俺が、アイツを止めるんだよ」

 どんな事情があれ『負』が原因で暴走した迷霊なら、攻撃を当てれば――正の力を打ち込めば、鎮静化できる。羽蔵さんや英虎くんのように。

「そういうワケなんで、お前らはそこを動くな。いいな?」
「そっ、それはできませんっ。貴男が失敗したら完璧に暴霊化してしまい、暴れ出して最悪の事態に陥りますから!」
「四空様の仰る通りだぞ花島っ。あの土水は、加工する力を持った暴れ馬になる!」
「それはきっと、我々ですら太刀打ちできない化け物だっ。最悪に備えて百人規模の増援を要請している、任務ならS級に値する件なんだぞ!」

 Sは、プロであっても多くの死者が出る危険性のある問題。以前S級の迷霊が暴霊となった際は、十数人の殉職者が出たと聞いている。

「貴様はバカか! 何千もの人間より一人の迷霊を優先するというのか!?」
「どっちが得なのか、なんてのは答えの出ない問題だからどうでもいい。俺はとにかく、真っ直ぐ生きた人が酷い最期を迎えることが許せないだけだ」

 苦しんで苦しんで死に、死後も苦しい思いをして消える。そんなのいいはずがない。

「真っ直ぐ? 土水さんの生前はともかくとして、その後は君を騙していたんですよっ?」
「四空様の仰る通りだぞ! これのどこが真っ直ぐなんだ!?」
「………………全てを、騙す。こいつは最低だ」

 言明する。これは、卑怯であり自分勝手な行為だ。

「だったら! 花島――」
「けどね、そうしたのは『生きるため』なんですよ。一緒にいたいと思った人と生きていきたいから、ただ『普通』に生きていきたいから、やってしまった。これを歪んでいると、言えますか?」

 最低限の幸せを望むのは。本来ならば当然の権利としてあったものを望むのは、罪なのか?
 そんなの、○か×かは決まっている。

「しかもそうするためのやり方は、対象の心身に傷を与えないものだ。ならば俺に、俺達に、その普通を享受している者に否定する資格はない。この部分を摘まんで、コイツは悪人だ、とは言えないんですよ」

 育美だって当たり前のものがあったならば、こんな真似はしていない。する必要がない。
 この行為に及んでいる時点で彼女は被害者で、一番悪いのはその状態にした両親。その二人の蛮行悪行がなければ、そもそも『生』自体を望むことはなかったのだから。

「……とまあ。このような理由で、俺は救う努力をしますわ。なのでアナタ方は、そこでジッとしててくださいな」
「っ、そんな真似できるか! 失敗したら誰が責任を取るというんだ!?」
「避難させても、いずれ追いかけてくるんですよっ? そうなって誰かが命を落とした場合は、どうやって――」
「ああもうやかましいのう。元凶は黙っておれ」

 矢庭に背後から聞こえた、年寄り口調の若い女性の声。この声音は……。

「やっぱりそうか。婆ちゃんだったんだね」

 振り返るとそこにいたのは、タンクトップにタイトスカートを合わせた美女。母方の祖母、凉樹凪だった。
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