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4話(1)
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「おはよう優陽クン。いい朝ね……」
新たな仲間が誕生した、次の日の午前6時過ぎ。自室のベッドで目を覚ますと、部屋の隅で夢兎さ――夢兎先輩が、パジャマ姿で三角座りをしていた。
「お、おはようです。なにをしてるんスか?」
室内にいる育美と真式先輩を起こさぬよう、ボリュームを下げて問うてみる。
ベッドを抜け出し、そこで座る。何があったのだろう?
「ああ、これ……? これのこと、ね……」
「は、はい。そうっス」
「…………時に、優陽クン。あたしらの寮の構造は、どうなってる?」
「ここ、ですか? 十八畳のLDKと五つベッドが並んである寝室に、バストイレ物置部屋という内容っスね」
現在俺達がいるのは、三~五人用の部屋。同じ部屋で並んで寝ると信頼関係が深まる――という先人の考えを受け、寝室は一つとなっているのだ。
「……ゆうべは、さ。キミが気を利かせてくれて、あたしは正義クンの隣のベッドに入ったでしょ?」
「そうっスね。そうなりました」
「そしたら、なんか緊張して眠れなくてね……。正義クンから一番遠いここで、一夜を過ごしたのよ」
先輩は思い切り欠伸をして、クマが出来た目を擦る。
ぁぁ。この人、そこでも殆ど眠れていないようだ。
「寝息が聞こえると、一気に顔が熱くなっちゃうのよ。あたしって、意外と乙女だったのね」
「これまで自分が――周りも気が付かなかった、新たな一面が出る。それが、恋というやつなんですよね」
「………………」
「せ、先輩? なんで黙るんスか?」
「………………アンタって、ホントに年下? 昨日から、成熟した人みたいな発言ばかりしてるんだけど」
保険証か何かを見せて。年齢詐称してない? と、迫ってくる。
「詐称、してるでしょ? 実は六十代の、酸いも甘いもかみ分けた人なんでしょ?」
「や、ちゃんと十五歳ですって。この通り、紛れもなく後輩っスよ」
「……確かにこの保険証、生年月日はそうなってるわね。だとしたら、妙に立派なのは生来の性格?」
「立派かどうかはわかりませんけど、性格は迷霊師だった婆ちゃんが影響してると思いますね。傍にいて、色々考えさせられることがありましたから」
迷霊が生まれる理由を知ると、迷霊の苦しみを知る。迷霊の苦しみを知ると、人間の醜さを知る。
このように数珠つなぎになり、ある時は頭で想像し、ある時はこの身体で経験して。花島優陽は出来上がったのだろう。
「ふーん、優陽クンのグランマは迷霊師なんだ。だとしたら霊視できるキミは、小さい頃からお手伝いしてたの?」
「休日になると、サポートをしてましたね。昔の土日祝日夏冬春休みは、育美と遊ぶ時以外は援護か花の手入れをやってました」
水や肥料をあげて、婆ちゃんから電話がかかったら婆ちゃんの家に直行。その仕事が終わると家に戻って、植物の世話をしたりお客さんの家に行き花に関してレクチャーしたりする。
こういう生活は、自分にとってはとても充実していた。
「俺が初めて個人的に救った子と出会ったのも、婆ちゃん家からの帰りだったんス。そういう意味でも、婆ちゃんには感謝してますよ」
「感謝といえば、あたしも優陽クンのグランマには感謝してるわ。そのおかげでキミが任務を受けるようになって、あたし達は正義クン、育美クン、優陽クンと知り合えたんですもの」
先輩は目尻を下げ、傍に置いていた遺影を胸に抱く。
俺は――真式先輩も、育美もだ。そう言ってもらえると光栄だし、こちらもあの段階で二人に出会えてよかったよ。
「この恩返しは一杯しなくちゃって思ってて、欠けてるその時の記憶を思い出すお手伝いもしたいと思ってるの。二人とも、思い当たるコトはないのよね?」
「ないっス。皆目見当も付きませんよ」
この件は、スコップの軌道と同じくらい奇妙奇天烈。まさしく謎だ。
「その子は迷霊になり立てで戦闘はなかったんで、三人で楽しい思い出を作ってる時に『何か』があったと推測される。分かってるのは、これくらいっスね」
「……改めて迷霊師になると決意するほど大事な出来事なのに、すっぽり抜け落ちてる。一筋縄ではいかなそうね……」
先輩は腕組みをして眉根を寄せ、黙考をしたのち柏手を打つ。これは、なにやら思い付いたようだ。
新たな仲間が誕生した、次の日の午前6時過ぎ。自室のベッドで目を覚ますと、部屋の隅で夢兎さ――夢兎先輩が、パジャマ姿で三角座りをしていた。
「お、おはようです。なにをしてるんスか?」
室内にいる育美と真式先輩を起こさぬよう、ボリュームを下げて問うてみる。
ベッドを抜け出し、そこで座る。何があったのだろう?
「ああ、これ……? これのこと、ね……」
「は、はい。そうっス」
「…………時に、優陽クン。あたしらの寮の構造は、どうなってる?」
「ここ、ですか? 十八畳のLDKと五つベッドが並んである寝室に、バストイレ物置部屋という内容っスね」
現在俺達がいるのは、三~五人用の部屋。同じ部屋で並んで寝ると信頼関係が深まる――という先人の考えを受け、寝室は一つとなっているのだ。
「……ゆうべは、さ。キミが気を利かせてくれて、あたしは正義クンの隣のベッドに入ったでしょ?」
「そうっスね。そうなりました」
「そしたら、なんか緊張して眠れなくてね……。正義クンから一番遠いここで、一夜を過ごしたのよ」
先輩は思い切り欠伸をして、クマが出来た目を擦る。
ぁぁ。この人、そこでも殆ど眠れていないようだ。
「寝息が聞こえると、一気に顔が熱くなっちゃうのよ。あたしって、意外と乙女だったのね」
「これまで自分が――周りも気が付かなかった、新たな一面が出る。それが、恋というやつなんですよね」
「………………」
「せ、先輩? なんで黙るんスか?」
「………………アンタって、ホントに年下? 昨日から、成熟した人みたいな発言ばかりしてるんだけど」
保険証か何かを見せて。年齢詐称してない? と、迫ってくる。
「詐称、してるでしょ? 実は六十代の、酸いも甘いもかみ分けた人なんでしょ?」
「や、ちゃんと十五歳ですって。この通り、紛れもなく後輩っスよ」
「……確かにこの保険証、生年月日はそうなってるわね。だとしたら、妙に立派なのは生来の性格?」
「立派かどうかはわかりませんけど、性格は迷霊師だった婆ちゃんが影響してると思いますね。傍にいて、色々考えさせられることがありましたから」
迷霊が生まれる理由を知ると、迷霊の苦しみを知る。迷霊の苦しみを知ると、人間の醜さを知る。
このように数珠つなぎになり、ある時は頭で想像し、ある時はこの身体で経験して。花島優陽は出来上がったのだろう。
「ふーん、優陽クンのグランマは迷霊師なんだ。だとしたら霊視できるキミは、小さい頃からお手伝いしてたの?」
「休日になると、サポートをしてましたね。昔の土日祝日夏冬春休みは、育美と遊ぶ時以外は援護か花の手入れをやってました」
水や肥料をあげて、婆ちゃんから電話がかかったら婆ちゃんの家に直行。その仕事が終わると家に戻って、植物の世話をしたりお客さんの家に行き花に関してレクチャーしたりする。
こういう生活は、自分にとってはとても充実していた。
「俺が初めて個人的に救った子と出会ったのも、婆ちゃん家からの帰りだったんス。そういう意味でも、婆ちゃんには感謝してますよ」
「感謝といえば、あたしも優陽クンのグランマには感謝してるわ。そのおかげでキミが任務を受けるようになって、あたし達は正義クン、育美クン、優陽クンと知り合えたんですもの」
先輩は目尻を下げ、傍に置いていた遺影を胸に抱く。
俺は――真式先輩も、育美もだ。そう言ってもらえると光栄だし、こちらもあの段階で二人に出会えてよかったよ。
「この恩返しは一杯しなくちゃって思ってて、欠けてるその時の記憶を思い出すお手伝いもしたいと思ってるの。二人とも、思い当たるコトはないのよね?」
「ないっス。皆目見当も付きませんよ」
この件は、スコップの軌道と同じくらい奇妙奇天烈。まさしく謎だ。
「その子は迷霊になり立てで戦闘はなかったんで、三人で楽しい思い出を作ってる時に『何か』があったと推測される。分かってるのは、これくらいっスね」
「……改めて迷霊師になると決意するほど大事な出来事なのに、すっぽり抜け落ちてる。一筋縄ではいかなそうね……」
先輩は腕組みをして眉根を寄せ、黙考をしたのち柏手を打つ。これは、なにやら思い付いたようだ。
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