51 / 94
3話(21)
しおりを挟む
「…………ありがと。もういいわ」
公園に設置された時計の長針が、90度程動いた頃。夢兎さんは先輩から離れ、ハンカチで顔を拭った。
「正義クン、長々と付き合わせて悪かったわ。情けない姿を見せちゃったわね」
「こちらは迷惑と感じていませんし、あれは情けない姿ではありませんよ。あの涙は想っている証で、貴方という人をとても好きになりました」
「っっ。そういうのをさらっと言える人間って、なんか反則……っ」
彼女は照れを誤魔化すため軽く先輩の脚を蹴り、サイドテールを人差し指でくるくる。そっぽを向いて暫くの間次の反応を考え、やがて深く腰を折り曲げた。
「そういえば、あたしはちゃんとお礼ができてなかったわね。えっと…………正義クン、優陽クン、育美クン、どうもありがとうございました」
「いえ、礼には及びませんよ。僕の意思でもありましたから」
「それにこれは、任務の一環っス。俺らはとある審査をクリアするために動いてた打算人間なんで、感謝は要りませんよ。ねえ育美?」
「…………………………」
隣にいる幼馴染は、肩を窄めて俯いてしまう。
あれ? もしやこれが、礼は不要の方便だと気付かなかった? 真に受けてしまったのか?
「………………夢兎ちゃんさん。ごめんなさい」
密かに真意を伝えようとしていると、育美は瞳を飽和状態にした。
コレは、そうだな。先の橋月姉弟のように、勘違いをされている。
「夢兎ちゃんさん。ごめんなさい、だよ、です……」
「えっ? ああううんっ、優陽クンのは思い遣りって重々承知よっ? いつの間にか自分も悪い人に、って感じて謝らなくていいのよっ?」
「…………えと、それはわかってるの。優君はそんな人じゃないから、わかってるの」
ぽつりと、力なく返事をする。
おや、俺の考えは大ハズレだったか。しかしだとしたら、その飽和はなんなんだ?
「ジブンの、ごめんなさいはね……。その……。んと……」
「??? 育美、どうしたの?」
「ぇっとね……。あの、ね……。…………ううん、なんでもないの。今のは忘れて欲しいの」
彼女はふるふる首を振り、口角を二つの人差し指で持ち上げ無理矢理スマイルを作る。
さっきは何やら思い詰めたようだったが、触れないで欲しいという感情が見てとれる。そこで俺は大仰に両手を打ち鳴らし、話頭を転じることにした。
公園に設置された時計の長針が、90度程動いた頃。夢兎さんは先輩から離れ、ハンカチで顔を拭った。
「正義クン、長々と付き合わせて悪かったわ。情けない姿を見せちゃったわね」
「こちらは迷惑と感じていませんし、あれは情けない姿ではありませんよ。あの涙は想っている証で、貴方という人をとても好きになりました」
「っっ。そういうのをさらっと言える人間って、なんか反則……っ」
彼女は照れを誤魔化すため軽く先輩の脚を蹴り、サイドテールを人差し指でくるくる。そっぽを向いて暫くの間次の反応を考え、やがて深く腰を折り曲げた。
「そういえば、あたしはちゃんとお礼ができてなかったわね。えっと…………正義クン、優陽クン、育美クン、どうもありがとうございました」
「いえ、礼には及びませんよ。僕の意思でもありましたから」
「それにこれは、任務の一環っス。俺らはとある審査をクリアするために動いてた打算人間なんで、感謝は要りませんよ。ねえ育美?」
「…………………………」
隣にいる幼馴染は、肩を窄めて俯いてしまう。
あれ? もしやこれが、礼は不要の方便だと気付かなかった? 真に受けてしまったのか?
「………………夢兎ちゃんさん。ごめんなさい」
密かに真意を伝えようとしていると、育美は瞳を飽和状態にした。
コレは、そうだな。先の橋月姉弟のように、勘違いをされている。
「夢兎ちゃんさん。ごめんなさい、だよ、です……」
「えっ? ああううんっ、優陽クンのは思い遣りって重々承知よっ? いつの間にか自分も悪い人に、って感じて謝らなくていいのよっ?」
「…………えと、それはわかってるの。優君はそんな人じゃないから、わかってるの」
ぽつりと、力なく返事をする。
おや、俺の考えは大ハズレだったか。しかしだとしたら、その飽和はなんなんだ?
「ジブンの、ごめんなさいはね……。その……。んと……」
「??? 育美、どうしたの?」
「ぇっとね……。あの、ね……。…………ううん、なんでもないの。今のは忘れて欲しいの」
彼女はふるふる首を振り、口角を二つの人差し指で持ち上げ無理矢理スマイルを作る。
さっきは何やら思い詰めたようだったが、触れないで欲しいという感情が見てとれる。そこで俺は大仰に両手を打ち鳴らし、話頭を転じることにした。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
夫は魅了されてしまったようです
杉本凪咲
恋愛
パーティー会場で唐突に叫ばれた離婚宣言。
どうやら私の夫は、華やかな男爵令嬢に魅了されてしまったらしい。
散々私を侮辱する二人に返したのは、淡々とした言葉。
本当に離婚でよろしいのですね?
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる