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3話(21)

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「…………ありがと。もういいわ」

 公園に設置された時計の長針が、90度程動いた頃。夢兎さんは先輩から離れ、ハンカチで顔を拭った。

「正義クン、長々と付き合わせて悪かったわ。情けない姿を見せちゃったわね」
「こちらは迷惑と感じていませんし、あれは情けない姿ではありませんよ。あの涙は想っている証で、貴方という人をとても好きになりました」
「っっ。そういうのをさらっと言える人間って、なんか反則……っ」

 彼女は照れを誤魔化すため軽く先輩の脚を蹴り、サイドテールを人差し指でくるくる。そっぽを向いて暫くの間次の反応を考え、やがて深く腰を折り曲げた。

「そういえば、あたしはちゃんとお礼ができてなかったわね。えっと…………正義クン、優陽クン、育美クン、どうもありがとうございました」
「いえ、礼には及びませんよ。僕の意思でもありましたから」
「それにこれは、任務の一環っス。俺らはとある審査をクリアするために動いてた打算人間なんで、感謝は要りませんよ。ねえ育美?」
「…………………………」

 隣にいる幼馴染は、肩を窄めて俯いてしまう。
 あれ? もしやこれが、礼は不要の方便だと気付かなかった? 真に受けてしまったのか?

「………………夢兎ちゃんさん。ごめんなさい」

 密かに真意を伝えようとしていると、育美は瞳を飽和状態にした。
 コレは、そうだな。先の橋月姉弟のように、勘違いをされている。

「夢兎ちゃんさん。ごめんなさい、だよ、です……」
「えっ? ああううんっ、優陽クンのは思い遣りって重々承知よっ? いつの間にか自分も悪い人に、って感じて謝らなくていいのよっ?」
「…………えと、それはわかってるの。優君はそんな人じゃないから、わかってるの」

 ぽつりと、力なく返事をする。
 おや、俺の考えは大ハズレだったか。しかしだとしたら、その飽和はなんなんだ?

「ジブンの、ごめんなさいはね……。その……。んと……」
「??? 育美、どうしたの?」
「ぇっとね……。あの、ね……。…………ううん、なんでもないの。今のは忘れて欲しいの」

 彼女はふるふる首を振り、口角を二つの人差し指で持ち上げ無理矢理スマイルを作る。
 さっきは何やら思い詰めたようだったが、触れないで欲しいという感情が見てとれる。そこで俺は大仰に両手を打ち鳴らし、話頭を転じることにした。
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