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3話(1)

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「――であるからして迷霊は心優しき者であり、加害者が深謝すればほぼ必ず応じてくれる。だが、その加害者が絶対に頭を下げないケースもあって――」

 一夜明け、午前11時台の半ば。俺と育美は1階にある自分達の教室で、『迷霊対処法1』という授業を受けていた。
 こんな時であっても俺達は迷霊科の生徒で、依頼の報酬で賄えない単位は授業と試験で取得しないといけない。本日の3時限目は読んで字の如く迷霊の対処法について学ぶモノで、今は『加害者が謝罪しない場合はどうするべきか?』、ということについて勉強している。

「加害者が反省しなければ、迷霊の成仏は有り得ない。されどそうしない。そんな時は、加藤。どうすると思う?」
「えーと……。その加害者を脅して、無理矢理謝罪させる、かな」

 俺の斜め前であり育美の真ん前にいる女子が当てられ、戸惑いながら回答をする。
 まあ、確かにそうだよな。こうさせるしかない、と思うよな。

「その答えは、理に叶ってはいるが、残念ながらハズレだ。偽りの謝罪は、どうしても誠実さが欠けてしまうからな」

 霊は感情の機微に敏感で、その手のウソを見抜けられる。もしもそうさせたら、怒ってしまい再び暴霊への道を辿ってしまうのだ。

「では、どうすればいいか? そういった時は…………非常に不本意なのだが、加害者に罰を与えることで納得してもらう、という方法を取るようになる」

 教壇に立つ男性教師は顔を顰めつつ、黒板に『迷霊法を用いた、加害者への罰則』とチョークを走らせた。

「ここにもあるように、この世界には迷霊のための法律が存在する。みんなも当然、知っているよな?」
「「「「「はいっ」」」」」

 今日の1時限目で、教わった事柄だからな。室内に、ハキハキとした声が響き渡った。

「この迷霊法の、使い方だが。まず迷霊に怨みを聞き、それを『審査会(しんさかい)』に伝える。そして審査会がその話をもとに審査を行い、加害者への罰を決める。これが一連の流れで、判決が下されるまでは平均2~3時間というところだ」

 ギリギリ説得を試みれる霊がいたら、それに間に合うように――。そんな理由で、全行程の速度は限界まで上げられている。

「これによって迷霊は例え、加害者が無反省でも成仏する事ができる。ただし、だ」

 教師は堀の深い顔を歪め、続ける。

「迷霊は人であり、人は千差万別だ。『怨んではいるが、罰を与えるのは可哀想』などと言った相反する感情を持つ迷霊もおり、そういう場合はこの方法で成仏へと導けはしない」
「せ、先生。でしたら、そういう時はどうすればいいんですか……?」

 手の打ちようがないと思える、台詞達。それを耳にしていたクラスメイトの一人が、たまらず左の手を上げた。

「相手の反省は不可能。罰での成仏も不可能。どうしたら、その霊を救えるんですか……?」
「それは、対話だな。迷霊師が迷霊と会話し、落とし所を見つける。それがこの手のケースの対処法で、例を一つ挙げてみよう」

 教師は再度白のチョークを走らせ、


『相手は全く悪びれていない。だから世の中のためにも厳罰を与え、酷い目に遭わせて思い知らせないといけないんだよ』


 黒板に、このような日本語が綴られた。
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