31 / 94
3話(1)
しおりを挟む
「――であるからして迷霊は心優しき者であり、加害者が深謝すればほぼ必ず応じてくれる。だが、その加害者が絶対に頭を下げないケースもあって――」
一夜明け、午前11時台の半ば。俺と育美は1階にある自分達の教室で、『迷霊対処法1』という授業を受けていた。
こんな時であっても俺達は迷霊科の生徒で、依頼の報酬で賄えない単位は授業と試験で取得しないといけない。本日の3時限目は読んで字の如く迷霊の対処法について学ぶモノで、今は『加害者が謝罪しない場合はどうするべきか?』、ということについて勉強している。
「加害者が反省しなければ、迷霊の成仏は有り得ない。されどそうしない。そんな時は、加藤。どうすると思う?」
「えーと……。その加害者を脅して、無理矢理謝罪させる、かな」
俺の斜め前であり育美の真ん前にいる女子が当てられ、戸惑いながら回答をする。
まあ、確かにそうだよな。こうさせるしかない、と思うよな。
「その答えは、理に叶ってはいるが、残念ながらハズレだ。偽りの謝罪は、どうしても誠実さが欠けてしまうからな」
霊は感情の機微に敏感で、その手のウソを見抜けられる。もしもそうさせたら、怒ってしまい再び暴霊への道を辿ってしまうのだ。
「では、どうすればいいか? そういった時は…………非常に不本意なのだが、加害者に罰を与えることで納得してもらう、という方法を取るようになる」
教壇に立つ男性教師は顔を顰めつつ、黒板に『迷霊法を用いた、加害者への罰則』とチョークを走らせた。
「ここにもあるように、この世界には迷霊のための法律が存在する。みんなも当然、知っているよな?」
「「「「「はいっ」」」」」
今日の1時限目で、教わった事柄だからな。室内に、ハキハキとした声が響き渡った。
「この迷霊法の、使い方だが。まず迷霊に怨みを聞き、それを『審査会(しんさかい)』に伝える。そして審査会がその話をもとに審査を行い、加害者への罰を決める。これが一連の流れで、判決が下されるまでは平均2~3時間というところだ」
ギリギリ説得を試みれる霊がいたら、それに間に合うように――。そんな理由で、全行程の速度は限界まで上げられている。
「これによって迷霊は例え、加害者が無反省でも成仏する事ができる。ただし、だ」
教師は堀の深い顔を歪め、続ける。
「迷霊は人であり、人は千差万別だ。『怨んではいるが、罰を与えるのは可哀想』などと言った相反する感情を持つ迷霊もおり、そういう場合はこの方法で成仏へと導けはしない」
「せ、先生。でしたら、そういう時はどうすればいいんですか……?」
手の打ちようがないと思える、台詞達。それを耳にしていたクラスメイトの一人が、たまらず左の手を上げた。
「相手の反省は不可能。罰での成仏も不可能。どうしたら、その霊を救えるんですか……?」
「それは、対話だな。迷霊師が迷霊と会話し、落とし所を見つける。それがこの手のケースの対処法で、例を一つ挙げてみよう」
教師は再度白のチョークを走らせ、
『相手は全く悪びれていない。だから世の中のためにも厳罰を与え、酷い目に遭わせて思い知らせないといけないんだよ』
黒板に、このような日本語が綴られた。
一夜明け、午前11時台の半ば。俺と育美は1階にある自分達の教室で、『迷霊対処法1』という授業を受けていた。
こんな時であっても俺達は迷霊科の生徒で、依頼の報酬で賄えない単位は授業と試験で取得しないといけない。本日の3時限目は読んで字の如く迷霊の対処法について学ぶモノで、今は『加害者が謝罪しない場合はどうするべきか?』、ということについて勉強している。
「加害者が反省しなければ、迷霊の成仏は有り得ない。されどそうしない。そんな時は、加藤。どうすると思う?」
「えーと……。その加害者を脅して、無理矢理謝罪させる、かな」
俺の斜め前であり育美の真ん前にいる女子が当てられ、戸惑いながら回答をする。
まあ、確かにそうだよな。こうさせるしかない、と思うよな。
「その答えは、理に叶ってはいるが、残念ながらハズレだ。偽りの謝罪は、どうしても誠実さが欠けてしまうからな」
霊は感情の機微に敏感で、その手のウソを見抜けられる。もしもそうさせたら、怒ってしまい再び暴霊への道を辿ってしまうのだ。
「では、どうすればいいか? そういった時は…………非常に不本意なのだが、加害者に罰を与えることで納得してもらう、という方法を取るようになる」
教壇に立つ男性教師は顔を顰めつつ、黒板に『迷霊法を用いた、加害者への罰則』とチョークを走らせた。
「ここにもあるように、この世界には迷霊のための法律が存在する。みんなも当然、知っているよな?」
「「「「「はいっ」」」」」
今日の1時限目で、教わった事柄だからな。室内に、ハキハキとした声が響き渡った。
「この迷霊法の、使い方だが。まず迷霊に怨みを聞き、それを『審査会(しんさかい)』に伝える。そして審査会がその話をもとに審査を行い、加害者への罰を決める。これが一連の流れで、判決が下されるまでは平均2~3時間というところだ」
ギリギリ説得を試みれる霊がいたら、それに間に合うように――。そんな理由で、全行程の速度は限界まで上げられている。
「これによって迷霊は例え、加害者が無反省でも成仏する事ができる。ただし、だ」
教師は堀の深い顔を歪め、続ける。
「迷霊は人であり、人は千差万別だ。『怨んではいるが、罰を与えるのは可哀想』などと言った相反する感情を持つ迷霊もおり、そういう場合はこの方法で成仏へと導けはしない」
「せ、先生。でしたら、そういう時はどうすればいいんですか……?」
手の打ちようがないと思える、台詞達。それを耳にしていたクラスメイトの一人が、たまらず左の手を上げた。
「相手の反省は不可能。罰での成仏も不可能。どうしたら、その霊を救えるんですか……?」
「それは、対話だな。迷霊師が迷霊と会話し、落とし所を見つける。それがこの手のケースの対処法で、例を一つ挙げてみよう」
教師は再度白のチョークを走らせ、
『相手は全く悪びれていない。だから世の中のためにも厳罰を与え、酷い目に遭わせて思い知らせないといけないんだよ』
黒板に、このような日本語が綴られた。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
妹しか守りたくないと言う婚約者ですが…そんなに私が嫌いなら、もう婚約破棄しましょう。
coco
恋愛
妹しか守らないと宣言した婚約者。
理由は、私が妹を虐める悪女だからだそうだ。
そんなに私が嫌いなら…もう、婚約破棄しましょう─。
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
虐げられた無能の姉は、あやかし統領に溺愛されています
木村 真理
キャラ文芸
【書籍化、決定しました!発売中です。ありがとうございます! 】←new
【「第6回キャラ文芸大賞」大賞と読者賞をw受賞いたしました。読んでくださった方、応援してくださった方のおかげです。ありがとうございます】
【本編完結しました!ありがとうございます】
初音は、あやかし使いの名門・西園寺家の長女。西園寺家はあやかしを従える術を操ることで、大統国でも有数の名家として名を馳せている。
けれど初音はあやかしを見ることはできるものの、彼らを従えるための術がなにも使えないため「無能」の娘として虐げられていた。優秀な妹・華代とは同じ名門女学校に通うものの、そこでも家での待遇の差が明白であるため、遠巻きにされている。
けれどある日、あやかしたちの統領である高雄が初音の前にあらわれ、彼女に愛をささやくが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる