心を失ってしまった令嬢は、心優しい精霊王に愛される

柚木ゆず

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第18話 返事と願い 俯瞰視点

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「返事が遅くなってしまい、すまなかった。……ラシェル嬢。そちらは、是非ともお願いをしたいと思っている」

 心の中で状況の整理を行い、自身と向かい合い、胸にある感情を理解したセレスティン。彼はブルーの瞳を真っすぐ見つめ、穏やかに口元を緩めました。

「っ、ありがとうございます……っ。セレスティン様……っ。受け入れてくださり、ありがとうございます……っ!」
「ラシェル嬢。感謝を伝えるのは、むしろこちらだ。貴女が行動を起こしてくれたおかげで、『芽』に気が付けたのだからな」

 綻んだ顔に向けて穏やかな微苦笑を浮かべ、彼は右の手をそっと自身の胸元に当てました。

「芽……? ですか……?」
「ああ、芽だ。貴女と『友』以上の関係になりたい、恋をしたい。そんな気持ちを、俺は抱いていたのだよ」

 これまでにあった出来事。短くも濃い、2日間。それによって自分自身も、好意を持っていた――初めてそういった感情が生まれていた。ゆっくりと、幸せそうに、そう伝えられました。

「経験がない故に、理解をできなかったのだろう。未熟故に、大事な縁を自ら手放してしまうところだった。……ラシェル嬢。迷い子のようになっていた俺を導いてくれたこと、深く感謝する」

 中盤で膝を折り曲げ、左ひざを地面につけた状態で言葉を紡いだセレスティン。彼はそれを終えると、今度は右ひざを地面につけました。
 左のひざによる、片膝立ち。これは精霊界で、最大級の謝意を表すもの。
 そして、右膝による片膝立ちは――。精霊界で、最大級の好意を表すものでした。

「ラシェル嬢。貴女は俺の為に努力をすると言ってくれたが、それは俺も同じだ。このような不安をもたらしかねない無様な姿は、二度と見せないと誓おう。俺もまた貴女により好きだと思ってもらえるよう、最大限の努力をすると約束する」
「……セレスティン、さま……っ。そんなお言葉をいただけるだなんて……。私は、幸せ者です……!」
「これもまた『同じ』なのだが――そんな反応をもらえる俺もまた、幸せ者だ。…………ラシェル嬢。今後とも、なにとぞよろしく。末永く共に歩んでゆこう」
「はい……っ。はい……っ! セレスティン様っ。よろしくお願い致します」

 優しく差し出された手に手を重ね、その場には2つの大きな笑顔の花が咲きました。こうしてセレスティンとラシェルの関係はより親密なものとなり、そうして2人は――

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