心を失ってしまった令嬢は、心優しい精霊王に愛される

柚木ゆず

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第17話 初~返事に関して~ セレスティン視点(2)

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『……お姉様達の言い分は、分かります……。急に死を宣告されるのは、大切な人がこんな形でいなくなるのは……。辛いですよね……』

『生贄は精霊王様から指定があったのではなく、公平にクジで選ばれただけ。でしたら…………私が、お姉様の代わりになります』

『どなたが選ばれたのか、分かりませんが……。明日のお昼に生贄になれというのは……。地獄のよう、ですよね……』

『生贄の身代わりは、許されていませんが……。うまく変装すれば、可能かもしれません…………。………………このパーティーが終わったら、その方のもとを訪ねて――』


 申し訳ないが、断りを入れよう。そう思っていたその時、だった。
 突然ラシェル嬢の言葉や表情が、次々と浮かび上がってきたのだ。

((共有した彼女の記憶が、独りでに蘇ってきた。こんなことは、起こりえないはずだが……。どうなっている……?))

 本来、決してあり得ない状況。それを解明するべ思案を始め、そうしていると――。やがて、とある感情を感知することができた。その原因を把握することはできなかったが、違うものを感知することができた。

((これは…………。悲しみ、か))

 断ると決めたと同時に、胸の中にはそういった感情が生まれていた。そしてソレは、


『元孤児の方々が、孤児院を卒業したあとも幸せに暮らせるような環境を……。私は作ります……!』

『……………………だって……。みんな…………苦しむために生まれてきたんじゃないっ! 幸せな時間を過ごすために生まれてきたんだもの!! だからっ、私は!! そうあれるようにっ、お手伝いをしたいんですっっ!!」


 ラシェル嬢に関する記憶が浮かび上がってくると、更に大きくなる。最初は凝らさないと認識できなかったソレは、あっという間に容易に認識できる程になってしまったのだ。

((……ラシェル嬢の言葉と表情に反応して、悲しみが増してゆく。…………つまり俺は――。断るという行為を、悲しく感じていたのか))

 自分自身では、全く気が付かなかった。けれどこうした事実があるのだから、そういうことになる。

((この提案を、なしとする。それがつらい。……俺は――俺は心の奥ではラシェル嬢と、『友』だけではなく、そういった関係を築きたいと思っているというのか……))

 そこに関しても、無論自覚はない。しかしながら同じく、事実があるのだからそういうことになる。

((……無意識的に、彼女にそのような感情を抱いていたなんて。予想だにしない――否。それは至当か))

 記憶の把握によって『ラシェル・ターザッカル』という人間を深く理解し、そんな人の行動を傍で見てきた。他者への想いによって心が蘇るという、あまりにも思い遣りに溢れる姿を目の当たりにしたのだ。
 清らかな人に惹かれるのは、至当だ。

((ふ、なるほど。そうか。これが、恋か))

 俺はようやく、自身の中に『芽』があるのだと気が付いた。その芽を育てたいと考えているのだと、気が付いた。
 故に――

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