心を失ってしまった令嬢は、心優しい精霊王に愛される

柚木ゆず

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第16話 理由~前夜の出来事~ ラシェル・ターザッカル視点(1)

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「セレスティン様。貴方様はどうして、あの仕組みを――生贄を、廃止なされたのですか?」

 それは、リッカレンズの湖でのことでした。配慮をいただき私達は満月が映る水面を眺めていて、不意に私は質問を行いました。

「生贄を喰らうことで、強力な力を得られるのですよね? ノーリスクで安泰を得られる行為を、なぜ止めようと思われたのですか?」

 あの頃の私には、感情がありませんでした。そのため非効率的だと納得できず、酷く不躾な内容を尋ねてしまったのです。

「生贄を禁止とした理由、か。それは、俺の性質――生来持っていた能力が起因する」

 にもかかわらずセレスティン様は嫌な顔一つなさらず、わざわざ詳細を語ってくださいました。

「精霊王となれば固定された能力が100、贄を喰らえば200、普通の精霊は5~20の能力がランダムで宿るようになっていて、俺が有するものの中に『触れたものの記憶を読み取る』力があった。故に俺は114歳の頃、偶然知ってしまうのだよ。かつて生贄となり歴代精霊王に喰われた者達の、悲痛な叫びを」

 助けて助けて助けて助けて!!
 怖い怖いっ!!
 死にたくない死にたくない!!
 いやあああああああああああああああああああああああああ!!

 セレスティン様は優秀な精霊で、次の精霊王候補として王の座に招かれたそうです。その際にその場に漂う16人の『思念』に触れ、16つの絶望が――想像を絶する激しい感情が流れ込んで来たそうです。

「……俺はそれを知った時、しばらく言葉を失ってしまったよ。なぜならば生贄の件は、精霊王しか知らぬこと――一般精霊には偽りの説明がなされ、王の側近でさえもまったく知らなかったのだからな」

 異世界より相性が良い異性を招き、一夜の情を交わす。

 それが更なる力を得る条件とされていて、全員が丁重に扱われて元の世界へと送り届けられていると考えていたそうです。

「生贄による強化は精霊王の特権ではなく、精霊ならば誰でも可能なものだった。故に強力な敵を生まないよう、『嘘』をついていたのだよ。その事実は新たな精霊王が誕生した際に、旧精霊王から新精霊王へのみ――忠実な味方息子へのみ伝えられる、トップシークレットだったのだ」

 新たな精霊王は先代の精霊王が決める仕組みとなっており、そのため任命されるのは『自分に都合の良い精霊』となります。つまり退位後も安泰をもたらしてくれる存在にだけ、確固たる地位を得られる方法を教えていたそうです。

「俺にとって精霊王とは民に幸せをもたらす、『善』の権化のような存在。憧れの存在だった。しかしながらその瞬間認識は一変し、忌々しい存在へと姿を変えた。……それ故に俺は、その場で決意したのだよ。俺が次の精霊王となり、真実を明るみにし、忌々しい儀式を抹消すると」

 そうしてセレスティン様は、密かに行動を始められて――

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