心を失ってしまった令嬢は、心優しい精霊王に愛される

柚木ゆず

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第15話 その後 俯瞰視点(2)

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「それにだ、ラシェル嬢。貴女の崇高な目標を、俺はよく知っている」

 新当主への協力を提案した、セレスティン。彼は斜め前方にある建物、孤児院を一瞥しました。

「受け皿を用意して、生涯の幸せを実現させたい。それが、貴女の悲願だ」
「はい。そちらが、私の夢です」
「清い人が抱いているのは、至極清らかなもの。故に、現実のものにしたいと強く思っているのだよ。そこも含め、支えてゆきたいと思っているのだよ」

 澄んだ意志のみが存在する考えは最大限尊重し、実現に向けて最大限の手助けを行うべきだ。それが、新精霊王の考えでした。
 そのためセレスティンは再びラシェルへと視線を向け、ゆっくりと右手を差し出しました。

「精霊界のトップとしても、一人の精霊としても、貴女のすべてに感銘を受けている。故に今後も関係を持ってもらいたいと思っているのだが、どうだろうか? 俺を――俺達を・・・、受け入れてはもらえるだろうか?」
「…………セレスティン様。私は、幸せ者でございます」

 ラシェルの顔にある、美しいブルーの瞳。真っすぐ彼を見つめていたソレが、潤み始めました。

「私も恩人様と、もっともっと同じ時間を過ごしたいと思っておりました。また、そちらは是が非でも実現したいと望むものでした。…………ですので、セレスティン様。いただいたお言葉の全てを、有難く受け取らせていただきます」

 恩人がくれたのは、たくさんの幸せが詰まった提案。なのでラシェルは差し出された右手を両手で握り、

「あ、あの……」

 そうしていた彼女の喉が動き、ごくりと唾液を呑み込みました。

「…………すでに、これ以上ない幸せをいただいているのですが……。我が儘を口にすることを、お許しください」
「ふ。貴女の我が儘なら、喜んで耳を傾けよう。ラシェル嬢、なにかな?」
「ありがとう、ございます。………………。セレスティン様」

 息を一回、大きく吸って、吐いて。急激に速くなり始めた鼓動を、一生懸命抑えて。
 ラシェルは心の中で祈りをながら、こんな風に言葉を紡いだのでした。

「貴方様に、異性として好きになっていただけるように……。努力をしても、構いませんでしょうかっ?」

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