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第15話 その後 俯瞰視点(1)
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「そう、なのですね。陛下、父や母、姉は……。もう、この世界には居ないのですね」
ターザッカル伯爵邸で、処理を終えたあとのことでした。セレスティンはライフェークス孤児院へと戻り、敷地の隅で――オレルなど孤児の耳に入らない場所で、現状をラシェルに伝えていました。
「国王ジスランは多くの罪を犯した故に、違う世界に飛ばした。セゼール、エミリ、リヴィアの3人は、黒魔術に手を染めた故に魂を取られてしまった。……ラシェル嬢、貴女は寂しさを覚えるか?」
「父達に関しては、それでも家族でしたので…………そういったものはございます。ただ…………。それよりも、ホッとしている感情の方が多く存在しています」
自分が思っていたよりも遥かに、3人の心は邪悪だった。それを知ったことによりラシェルの中では、『安堵』が8割以上を占めていたのです。
「そんな人達が居なくなって、安心した、よかった。…………そんな風に思う私もまた、良くない人間、なのかもしれませんね」
「否。貴女のソレは、喜びではなく安心が由来だ。そちら側の人間であるはずがない」
「……セレスティン様、ありがとうございます。そして…………申し訳ございません」
最後の呟きは、心のどこかでその答えを期待していた。罪悪感を薄めるためのものだった。
口にしてソコに気付いてしまったラシェルは、姿勢を正し、二つの意味を込めて腰を折り曲げました。
「ふふ、貴女らしい反応だな。……ラシェル嬢。俺はますます、貴女という人を好きになったよ」
ラシェルは、被害者。被害を受けているのですから、そういうことを考えてもおかしくはありません。むしろそれが、極々普通の感情でした。
けれど相手がどうであれ、相手が自ら招いた不幸であっても、思うところがあり本心を素直に告げる性質。そこに改めて、セレスティンは惹かれました。
「故に貴女さえよければ、今後も時々こうして会い会話をしたいと望んでいる。そしてもう一つ、これからの貴方を支えてゆきたいと思っている」
生まれて初めて――193年の人生の中で、初めて出会った『清い人』。心地よい清らかさに触れていたという希望があり、そんな彼女はこれから新当主として慌ただしい毎日が待っています。
記憶を共有したことで『親族もまた一物を抱えたものばかり』と理解しているセレスティンは、協力を申し出ていたのです。
ターザッカル伯爵邸で、処理を終えたあとのことでした。セレスティンはライフェークス孤児院へと戻り、敷地の隅で――オレルなど孤児の耳に入らない場所で、現状をラシェルに伝えていました。
「国王ジスランは多くの罪を犯した故に、違う世界に飛ばした。セゼール、エミリ、リヴィアの3人は、黒魔術に手を染めた故に魂を取られてしまった。……ラシェル嬢、貴女は寂しさを覚えるか?」
「父達に関しては、それでも家族でしたので…………そういったものはございます。ただ…………。それよりも、ホッとしている感情の方が多く存在しています」
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「そんな人達が居なくなって、安心した、よかった。…………そんな風に思う私もまた、良くない人間、なのかもしれませんね」
「否。貴女のソレは、喜びではなく安心が由来だ。そちら側の人間であるはずがない」
「……セレスティン様、ありがとうございます。そして…………申し訳ございません」
最後の呟きは、心のどこかでその答えを期待していた。罪悪感を薄めるためのものだった。
口にしてソコに気付いてしまったラシェルは、姿勢を正し、二つの意味を込めて腰を折り曲げました。
「ふふ、貴女らしい反応だな。……ラシェル嬢。俺はますます、貴女という人を好きになったよ」
ラシェルは、被害者。被害を受けているのですから、そういうことを考えてもおかしくはありません。むしろそれが、極々普通の感情でした。
けれど相手がどうであれ、相手が自ら招いた不幸であっても、思うところがあり本心を素直に告げる性質。そこに改めて、セレスティンは惹かれました。
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生まれて初めて――193年の人生の中で、初めて出会った『清い人』。心地よい清らかさに触れていたという希望があり、そんな彼女はこれから新当主として慌ただしい毎日が待っています。
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