心を失ってしまった令嬢は、心優しい精霊王に愛される

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
34 / 52

第12話 王の代償 俯瞰視点(3)

しおりを挟む
「こんな愚者が、一国の舵を取っていた。それがこの国一番の不幸だな」

 どこまでも醜い行動を見て聞いた、セレスティン。彼は再び、冷めた呆れの息を吐き出しました。

「だがそんな不幸も、今日で終わる。これからこの国は、よい方向に進んでゆくことだろう」
「……え? え……? お、わる……? せ、精霊王様……? そ、それは……。まさか…………」
「ああ、そのまさかだ。……これまで幾度となく、『恐怖』で多くの人間を抑えつけてきた愚王。そんな存在は必要であるはずがなく、これより貴様を排除する」

 その言葉を合図として、ジスランの真下に直径5メートルほどの魔法陣が発生。それは眩く七色に輝き始め、更には陣の内部が高速で回転を始めました。

「ひぃぃぃぃぃ!? にっ、逃げないとっ! にげぇぇ――足が動かない!? ゆっ、床に足がぁぁぁ!! 貼りついてるぁぁああ!?」
「術が発動する十数秒後まで、貴様は決してそこを動けない。どう足掻いても抜け出せはしない」
「そっ、そんなぁぁ!! なっ、なにが起きる!? なにがあるんだぁぁ!?」
「これから貴様は俺が創造した世界に飛ばされ、貴様に相応しい出来事が待っているだろう。因果の応報を味わい、朽ちてゆくがいい」
「いっ、いやだぁぁああああああ!! せっ精霊王お願い致します!! 金っ、酒っ、女!! 貴方様が望むものなら何でも用意させていただきますのでぇぇ!! おやめくださいませぇええええええええ!!」

 ジスランは自分が喜ぶ内容を叫びましたが、言わずもがな、それはセレスティンが喜ぶ内容ではありません。むしろ、その逆。多くの不快感を覚えるものでした。
 そのため、発動が撤回されることはなく――

「……時は来た。貴様がこれまで他者に与えてきた、痛みを知るがいい」
「おっ、おまちくださああああああ!! おまっ、おまぁぁ!! たった一度の過ちでこんなことっ、厳しすぎる!! チャンスぉぉぉ!! チャンスをくれぇえええええええええええええええええええええええええええ!! おねがいしま」

 ――魔法陣が強く発光し、醜く泣き叫んでいたジスランの姿は消失しました。

「…………これで、こちらは片付いた。あとは、あちらだな」

 愚かなる王が居た場所、そして玉座。それらを眺めたあとセレスティンは、人払いの結界を解除しました。
 そうして彼はこの場にメッセージの伝達係を眷属を一つ置いたあと、転移魔法陣を用いて次の目的へと飛んだのでした。

 こうしてセレスティンはターザッカル伯爵邸を目指し、同時刻――。同じく王の間から姿を消した、ジスランは――。









 ※明日の投稿分は、ジスランを中心とした視点となります。

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。

田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。 ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。 私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。 王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

処理中です...