心を失ってしまった令嬢は、心優しい精霊王に愛される

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
33 / 52

第12話 王の代償 俯瞰視点(2)

しおりを挟む
「せ、精霊王……? おまえ――貴方様が!? あの精霊王様なのですか!?」
「ああ、俺が今代の精霊王セレスティンだ。貴様にこたびの罰を与えるため、こうして現れたのだよ」

 おもわず立ち上がり、目尻が裂けんばかりに目を見開く。酷く狼狽したジスランのもとへと歩を進め、セレスティンは彼の真ん前で立ち止まりました。

「ばっ、罰……!? もっ、もしや生贄がお気に召さなかったのでしょうかっ? でしたら大至急っ、別の女をご用意しま――」
「そうではない。我々の声を無視して行動し、忌々しき贄の制度を私的に利用し続けた。その罪を償わせようとしているのだよ」

 セレスティンは冷めた声音で声をかき消し、説明を行いました。
 あのメッセージ通り、自分は生贄を求めてなどいないことを。生贄とされているリヴィアことラシェルは保護していることを。眷属を使い、ジスランの企みを全て把握していることを。

「……ジスランよ。王は、何のために存在しているのか分かるか? 何のために多くの力を有しているのか、分かるか?」
「え……。そ、それは……。その……」
「王は国をよりよい未来へと導き、民に安寧をもたらすために存在している。それらを理想ではなく実現させるために、一線を画する権限を所持しているんだ」

 やはり、答えられはしないか――。セレスティンは呆れの息を吐き、続けます。

「それがどうだ? 貴様は国や民へと注がねばならないものを、全て自身へと向けた。あまつさえ、他者の不幸、恐怖、悲しみを利用した」
「…………まっ、全く以てその通りでございます! 精霊王様にご指摘をいただきっ、目が覚めました! わたしはなんと悪しき行いに手を染めていたのでしょう!」

 口をモゴモゴと動かし、黒目がせわしなく四方八方に動いていたジスラン。そんな彼は唐突に大声を出し、大仰に頭を抱えました。

「慣れとは、恐ろしいものでして……。最初は、その手の行為に後ろめたさがあったのでございます……。ですが『もうちょっだけなら我が儘に振る舞ってもいいだろう』と思い、それを繰り返していくうちに……。感覚が麻痺しまいまして……。危うく完全に染まってしまうところでございました・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
「……………………」
「しかしながら精霊王様の一喝により、正気に戻りました!! ……今後は二度と、悪しき道に堕ちは致しません。国や民への尽力という形で、しっかりと、これまでの罪を償わせていただきます!」

 ジスランはたっぷりと自責の念を込め、宣言をしました。ですがこれは、全てが嘘。

 ――猛省したふりをすれば、きっとやり過ごせる!――。

 そんな理由で口にした、心にもない言葉でした。

((よ、よし。どうにか、渾身の芝居を打てたぞ……! これなら大丈夫だ!))

 奇跡的に会心の演技ができたため、愚かな彼は、ほっと胸を撫で下ろします。
 ですが――。愚かな者の予想が、当たっているはずはなく――

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。

田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。 ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。 私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。 王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

お父様、ざまあの時間です

佐崎咲
恋愛
義母と義姉に虐げられてきた私、ユミリア=ミストーク。 父は義母と義姉の所業を知っていながら放置。 ねえ。どう考えても不貞を働いたお父様が一番悪くない? 義母と義姉は置いといて、とにかくお父様、おまえだ! 私が幼い頃からあたためてきた『ざまあ』、今こそ発動してやんよ! ※無断転載・複写はお断りいたします。

処理中です...