心を失ってしまった令嬢は、心優しい精霊王に愛される

柚木ゆず

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第12話 王の代償 俯瞰視点(2)

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「せ、精霊王……? おまえ――貴方様が!? あの精霊王様なのですか!?」
「ああ、俺が今代の精霊王セレスティンだ。貴様にこたびの罰を与えるため、こうして現れたのだよ」

 おもわず立ち上がり、目尻が裂けんばかりに目を見開く。酷く狼狽したジスランのもとへと歩を進め、セレスティンは彼の真ん前で立ち止まりました。

「ばっ、罰……!? もっ、もしや生贄がお気に召さなかったのでしょうかっ? でしたら大至急っ、別の女をご用意しま――」
「そうではない。我々の声を無視して行動し、忌々しき贄の制度を私的に利用し続けた。その罪を償わせようとしているのだよ」

 セレスティンは冷めた声音で声をかき消し、説明を行いました。
 あのメッセージ通り、自分は生贄を求めてなどいないことを。生贄とされているリヴィアことラシェルは保護していることを。眷属を使い、ジスランの企みを全て把握していることを。

「……ジスランよ。王は、何のために存在しているのか分かるか? 何のために多くの力を有しているのか、分かるか?」
「え……。そ、それは……。その……」
「王は国をよりよい未来へと導き、民に安寧をもたらすために存在している。それらを理想ではなく実現させるために、一線を画する権限を所持しているんだ」

 やはり、答えられはしないか――。セレスティンは呆れの息を吐き、続けます。

「それがどうだ? 貴様は国や民へと注がねばならないものを、全て自身へと向けた。あまつさえ、他者の不幸、恐怖、悲しみを利用した」
「…………まっ、全く以てその通りでございます! 精霊王様にご指摘をいただきっ、目が覚めました! わたしはなんと悪しき行いに手を染めていたのでしょう!」

 口をモゴモゴと動かし、黒目がせわしなく四方八方に動いていたジスラン。そんな彼は唐突に大声を出し、大仰に頭を抱えました。

「慣れとは、恐ろしいものでして……。最初は、その手の行為に後ろめたさがあったのでございます……。ですが『もうちょっだけなら我が儘に振る舞ってもいいだろう』と思い、それを繰り返していくうちに……。感覚が麻痺しまいまして……。危うく完全に染まってしまうところでございました・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
「……………………」
「しかしながら精霊王様の一喝により、正気に戻りました!! ……今後は二度と、悪しき道に堕ちは致しません。国や民への尽力という形で、しっかりと、これまでの罪を償わせていただきます!」

 ジスランはたっぷりと自責の念を込め、宣言をしました。ですがこれは、全てが嘘。

 ――猛省したふりをすれば、きっとやり過ごせる!――。

 そんな理由で口にした、心にもない言葉でした。

((よ、よし。どうにか、渾身の芝居を打てたぞ……! これなら大丈夫だ!))

 奇跡的に会心の演技ができたため、愚かな彼は、ほっと胸を撫で下ろします。
 ですが――。愚かな者の予想が、当たっているはずはなく――

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