心を失ってしまった令嬢は、心優しい精霊王に愛される

柚木ゆず

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第9話 王の、独白? 俯瞰視点(2)

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「ゴーチェ、把握が完了したぞ。この騒動は王ジスランと父セゼールの行動が合わさり、発生していたようだ」

 リッカレンズの湖の畔に展開されている結界、その内に創造した旧レウザート邸を模した休眠スペース。そこにいるセレスティンへと、虹色の球体が――彼が放っていた2つの球体のうちの1つが舞い降り、ソレに触れた彼は側近に呼びかけました。

「ジスランは生贄を、現状維持に利用していた。あのまま進んでしまうと日常が崩壊してしまうが故に、お前からのメッセージを無視していたんだ」
《なっ、なんなのそれっ! 自分のために国民を犠牲にするだなんてっ、王がやっていいコトじゃないですよ!! ううんっ、王じゃなくてもダメだ!! 絶対にやっちゃいけないコトですよ!!》
「ああ。その通りだ」

 頂点に立つ者には、他を――全てを護る義務がある。犠牲によって成り立つものが、存在していてはならない。彼らにはそういった考えがあり、激しい怒りの声に一つ頷きを返しました。

《くっ、そんなクズにメッセージを送っていただなんて……。自分に腹が立つっ!》
「ゴーチェ。自己擁護に聞こえるかもしれないが――それは、どうしようもなかった問題。仕方がないものだ」

 当時である一か月前は、セレスティンが先代精霊王を討ったばかり。精霊界は再編に伴い酷く混乱した状況となっており、細かく確認する余裕など誰にもなかったのです。

「だがそれにより、少なくとも先代に喰らわれずに済んだ。その挽回は、充分に可能だ。それ故に良くはないが、最悪でもない」
《そ、そうですね。……セレ様っ!! ラシェルちゃんを救ったらっ! ボクの怒りも一緒に、ソイツにぶつけてください!!》
「無論、そのつもりだ。……まずは明日の正午、彼女の心を取り戻す」

 木製のチェアーに腰をかけていたセレスティンは再度小さく頷き、斜め前方を――ゆったりとしたベッドで眠りについている、ラシェルに視線を向けました。

「引き続き前例のない行為ではあるが、そんなものは関係ない。必ずやラシェル嬢を元に戻す」
《はいっ。セレ様、お願いします》
「俺は知っての通り、嘘が嫌いな生き物だ。任せておけ」

 不安などマイナスな感情が一切ない状態で、セレスティンは断言。そうして二人のやり取りは終わり、それから十二時間後。2人は転移用魔法陣を使い、第3の目的地へと飛んだのでした――。

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