心を失ってしまった令嬢は、心優しい精霊王に愛される

柚木ゆず

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第9話 王の、独白? 俯瞰視点(1)

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「『金輪際、生贄を遣す必要ない』。『今後は生贄がなくとも今までと同様の加護を与えよう』。そんな声が聞こえてきた時は、おもわず青ざめてしまったものだ」

 夜。1日が終わり、新たな1日が始まろうとしている、午前0時。王城内にある王専用の寝室に、国王ジスランの声が響きました。

「精霊王様が何をお考えになられているのか分からないが、そういうことをされては困るのだよ。生贄制度がなくなってしまえば、生意気な弟や貴族共を大人しくさせられなくなってしまうからのぅ」

 王ジスランは世襲制度によって王座に就いた、無能で自己中心的な男。私利私欲を第一に考え、そんな性質ゆえに身近な存在――実弟や上位貴族は、日々怒りを覚えていました。ですがそんな彼らは決して内心を口にはできませんし、実際に行動を起こしジスランを王から引き摺り下ろすことはできませんでした。
 なぜならば、

 100年に1度行われる生贄の抽選は、王が行う。

 ジスランはそんな仕組みを、巧みに利用していたからです。
『わたしに逆らえば、意図的にお前達の大切な存在を選ぼう』『一度でも反抗的な態度をとれば、以後永久にお前達の子孫を選ぶように息子たちに命じておく』、などなど。彼らの大事な人間を常に人質とすることで、暗殺を阻止しつつ見て見ぬふりをさせていたのです。

「生贄が不要となってしまえば反乱分子・・・・が一斉に動き出し、わたしはまず間違いなく終わってしまうだろう。それ故に酷く焦ったが…………。上手くいってよかった」

 精霊王は贄が要らないと言っていたが、選りすぐりの美女を贈れば考えは変わるだろう――。そんな理由で下調べを行い、丁度その頃ターザッカル伯爵は愛娘を――なぜか・・・双子の妹よりもウケが悪い姉を各所に売り込んでいた・・・・・・・。そのためそれを知ったジスランは、複数の理由・・・・・でリヴィアを――内面とは異なり見た目だけは優れていたリヴィアを、選んでいたのです。

「わたしの読みは見事的中し、リヴィア・ターザッカルが戻ってくることはなかった――生贄は無事、受け取られた。……うむうむ。これで今後も安泰だな。精霊王様、感謝いたしますぞ」

 がっはっはっはっは、と。ジスランは脂肪たっぷりの顎肉を揺らして下品に笑い、広々としたベッドで仰向けになっていた彼は、瞼を閉じて再び眠りについたのでした。
 そして、その直後。ジスランの頭部にくっついていた、七色の球体はふわりと浮かび上がって窓の外へと消えて――

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