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第8話 部屋を訪れた理由 俯瞰視点(3)
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「貴女が活動を再開しなければ、その夢が叶うことは未来永劫ないのだよ」
音読と解説を終えたセレスティンは、静かにかつ重い口調で、事実を口にしました。
「一冊目に綴られていたように、この国の貴族は益を生まない人間に手を貸しはしない。現在証明されているように、貴女の意識を継ぐ者もいない。そして俺はこの世界の生き物ではなく、人間界でそういった活動はできない。故に、ラシェル嬢。貴女が動かなければ止まったままなんだ」
「……………………わたしが、動かない、と……。止まった、まま……。夢は、叶わな、く、なる……」
「そう。決して実現しはしない。その努力は泡沫と消えてしまう。孤児院出身者の受け皿を用意することはできず、それによって――。多くの該当者が、暗く辛い人生を歩む羽目になってしまうだろう」
このような言い方は、セレスティンの本意ではありません。けれどソレは必要な言葉だと確信していたため、敢えてはっきりと告げたのです。
「3年前に立ち上がり、1年間必死になって知識を蓄え、2年間資金を懸命に増やし続けた貴女だ。それは看過できないものだろう?」
「……………………い、や。嫌……。孤児院にいる、みんな、は……。…………わたしは、知ってる……」
「ラシェル嬢。何を、知っているのだ?」
「……………………あの子たち、は……。たくさん、の……。つらい思いを、してきた……」
ラシェルは実際に何度も何度も、そういった施設に足を運んでいます。そのため彼女の『魂の中』には、接した際の記憶がしっかりと刻まれていました。
「……………………でもみんな、どうにか……。こころの、きずが、ふさがって……。…………ぁ、れ……? そんな人は……。みんなは、居た……? 居なかっ、た……?」
「ちゃんと居て、ラシェル嬢は言葉を交わしている。貴女は寝ぼけてしまっていて、少しばかり記憶が混乱しているだけだ。大丈夫。今頭の中に浮かんできているものは、全て事実だ」
そう返したセレスティンは膝を曲げて目線を合わせ、ラシェルの両手を取ってノートをそっと抱き締めさせます。そうして『思い出』を密着させ、見つめながら、再び声をかけてゆきます。
「どうにか心の傷が塞がって? その次は?」
「………………………………な、のに……。きずが、開いてしまって……。逆戻りしてしまう、のは、駄目……。だって……。だって……!」
「だって?」
「……………………だって……。みんな…………苦しむために生まれてきたんじゃないっ! 幸せな時間を過ごすために生まれてきたんだもの!! だからっ、私は!! そうあれるようにっ、お手伝いをしたいんですっっ!!」
これまでとは、全てが一変。まるで大爆発を起こしたかのような強い感情を含んだ大声が発せられ、光がなくなっていた瞳には――。
通常時の半分ほどの量ではありましたが、光が表れるようになったのでした。
音読と解説を終えたセレスティンは、静かにかつ重い口調で、事実を口にしました。
「一冊目に綴られていたように、この国の貴族は益を生まない人間に手を貸しはしない。現在証明されているように、貴女の意識を継ぐ者もいない。そして俺はこの世界の生き物ではなく、人間界でそういった活動はできない。故に、ラシェル嬢。貴女が動かなければ止まったままなんだ」
「……………………わたしが、動かない、と……。止まった、まま……。夢は、叶わな、く、なる……」
「そう。決して実現しはしない。その努力は泡沫と消えてしまう。孤児院出身者の受け皿を用意することはできず、それによって――。多くの該当者が、暗く辛い人生を歩む羽目になってしまうだろう」
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「……………………あの子たち、は……。たくさん、の……。つらい思いを、してきた……」
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「ちゃんと居て、ラシェル嬢は言葉を交わしている。貴女は寝ぼけてしまっていて、少しばかり記憶が混乱しているだけだ。大丈夫。今頭の中に浮かんできているものは、全て事実だ」
そう返したセレスティンは膝を曲げて目線を合わせ、ラシェルの両手を取ってノートをそっと抱き締めさせます。そうして『思い出』を密着させ、見つめながら、再び声をかけてゆきます。
「どうにか心の傷が塞がって? その次は?」
「………………………………な、のに……。きずが、開いてしまって……。逆戻りしてしまう、のは、駄目……。だって……。だって……!」
「だって?」
「……………………だって……。みんな…………苦しむために生まれてきたんじゃないっ! 幸せな時間を過ごすために生まれてきたんだもの!! だからっ、私は!! そうあれるようにっ、お手伝いをしたいんですっっ!!」
これまでとは、全てが一変。まるで大爆発を起こしたかのような強い感情を含んだ大声が発せられ、光がなくなっていた瞳には――。
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