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第8話 部屋を訪れた理由 俯瞰視点(2)
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「ラシェル嬢。貴女はこれまでずっと、走り続けてきていたんだ。こんな風に、一生懸命に」
椅子に座るラシェルに見えるようゆっくりとページを捲り、セレスティンは聞き取りやすい声調で中身を音読および解説してゆきます。
「『お父様やお母様にご支援のお願いをしましたが、叶いませんでした……。ですが、私は諦めません。きっと、方法はあるはずです』」
「『諦めなくて、本当によかった。1か月半近くかかってしまいましたが、光が見えました』」
「……ラシェル嬢。貴女は両親ににべもなく跳ね返されたものの、決して折れなかった。力を貸してもらえないのであれば、自分で力を作ればいい。そう思い立った貴女は自身の宝物を全て売り払い、それを元手として投資を始めた」
「……ラシェル嬢。貴女の右の中指、その爪の少し下に、何かないか?」
「……………………あり、ます。固い…………タコ、があります……」
「それは、必死に勉強をした証だ。貴女は投資の素人で、素人が適当にやって利益を出せるほど甘い世界ではない。そのため睡眠時間を削って勉強を行い、1年かけて膨大な知識を蓄えたのだ」
「そうして貴女は『勝負』を始め、貴女の場合失敗は許されない。損をしてしまえば実現は不可能となってしまう。それ故に手堅く立ち回ってゆき、歩みは遅いものの着実に、資金を増やしていっていたのだよ」
およそ100万ギルースから始まった戦いは、2年の間に515万ギルースまで増加。毎年ほぼ倍にしており、来年は1000万越えを狙えると考えていた――実際に行動をすれば、確実に超えていました。
ですが、
『なんだって!? 生贄は、リヴィア!?』
双子の姉が選ばれてしまったことにより、その活動は中止せざるを得なくなってしまったのです。
「ラシェル嬢。貴女は姉の生贄を知り、自身が身代わりになると決意する。そして、『……お父様とお母様は他者へお金を渡すことを、酷く嫌がっていましたが……。お姉様の代わりになると伝えたら、きっと大丈夫。このお金や生贄の補償金を使い、設立して欲しいとお願いしましょう』――。そう、考えた」
「……………………は、い。かんがえ、ました。私は、考え、ました……」
「だがヤツらは、どこまでも醜悪だった。……貴女が苦労して蓄えた金は、貴女の願い通りには使われない。仮にちゃんと依頼をできていたとしても、使用されることはなかった。なぜならばあの3人は、所有者がいなくなった金を懐に入れているのだから」
『あのお金だけでも結構な額だったのに、こっちはもっと上っ。こんなにお金があったら、なんでも買えちゃう。ずっと欲しかったアクセサリーもリングも、簡単に変えちゃうわ!』
家族の3人は当然、ラシェルの夢を知っていました。その515万ギルースが、どんな目的で生み出されたのかを知っていました。
けれど彼らにとって孤児出身者は、赤の他人。恩を売っても意味がない人間。そんな存在のために大金を使うはずがなく、何食わぬ顔で私利私欲での使用を決めていたのでした。
「……ラシェル嬢。故にだ」
こうして1時間半ほども費やし、丁寧に全ての音読と説明を行ったセレスティン。彼は5冊のノートをラシェルの膝の上に置き、そうして――
椅子に座るラシェルに見えるようゆっくりとページを捲り、セレスティンは聞き取りやすい声調で中身を音読および解説してゆきます。
「『お父様やお母様にご支援のお願いをしましたが、叶いませんでした……。ですが、私は諦めません。きっと、方法はあるはずです』」
「『諦めなくて、本当によかった。1か月半近くかかってしまいましたが、光が見えました』」
「……ラシェル嬢。貴女は両親ににべもなく跳ね返されたものの、決して折れなかった。力を貸してもらえないのであれば、自分で力を作ればいい。そう思い立った貴女は自身の宝物を全て売り払い、それを元手として投資を始めた」
「……ラシェル嬢。貴女の右の中指、その爪の少し下に、何かないか?」
「……………………あり、ます。固い…………タコ、があります……」
「それは、必死に勉強をした証だ。貴女は投資の素人で、素人が適当にやって利益を出せるほど甘い世界ではない。そのため睡眠時間を削って勉強を行い、1年かけて膨大な知識を蓄えたのだ」
「そうして貴女は『勝負』を始め、貴女の場合失敗は許されない。損をしてしまえば実現は不可能となってしまう。それ故に手堅く立ち回ってゆき、歩みは遅いものの着実に、資金を増やしていっていたのだよ」
およそ100万ギルースから始まった戦いは、2年の間に515万ギルースまで増加。毎年ほぼ倍にしており、来年は1000万越えを狙えると考えていた――実際に行動をすれば、確実に超えていました。
ですが、
『なんだって!? 生贄は、リヴィア!?』
双子の姉が選ばれてしまったことにより、その活動は中止せざるを得なくなってしまったのです。
「ラシェル嬢。貴女は姉の生贄を知り、自身が身代わりになると決意する。そして、『……お父様とお母様は他者へお金を渡すことを、酷く嫌がっていましたが……。お姉様の代わりになると伝えたら、きっと大丈夫。このお金や生贄の補償金を使い、設立して欲しいとお願いしましょう』――。そう、考えた」
「……………………は、い。かんがえ、ました。私は、考え、ました……」
「だがヤツらは、どこまでも醜悪だった。……貴女が苦労して蓄えた金は、貴女の願い通りには使われない。仮にちゃんと依頼をできていたとしても、使用されることはなかった。なぜならばあの3人は、所有者がいなくなった金を懐に入れているのだから」
『あのお金だけでも結構な額だったのに、こっちはもっと上っ。こんなにお金があったら、なんでも買えちゃう。ずっと欲しかったアクセサリーもリングも、簡単に変えちゃうわ!』
家族の3人は当然、ラシェルの夢を知っていました。その515万ギルースが、どんな目的で生み出されたのかを知っていました。
けれど彼らにとって孤児出身者は、赤の他人。恩を売っても意味がない人間。そんな存在のために大金を使うはずがなく、何食わぬ顔で私利私欲での使用を決めていたのでした。
「……ラシェル嬢。故にだ」
こうして1時間半ほども費やし、丁寧に全ての音読と説明を行ったセレスティン。彼は5冊のノートをラシェルの膝の上に置き、そうして――
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