心を失ってしまった令嬢は、心優しい精霊王に愛される

柚木ゆず

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第8話 部屋を訪れた理由 俯瞰視点(1)

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「ラシェル嬢。ここがどこか、分かるだろう?」
「………………は、い。ここは…………。へ、や……。わたしの…………おへや、です」

 引き出しからノートを取り出したセレスティンは、まずは室内を見回します。そうすればラシェルは――親の真似をする子どものように、同じように室内を見回して、淡々と返事をしました。

「ああ、その通りだ。ではそれが理解できる貴女なら、これも分かるだろう? 今俺が手に持っている5冊のノートは、どういうものだ?」
「………………ごさつの、のーと……。それは…………。それは……………………」
「コレはこの部屋と同じくらい、貴女にとって馴染みのあるもの。故に思い出せるはずだ。ちゃんと分かるはずだ」
「………………コレは……。………………ぁ。私の、もの…………。私の…………夢を、しるした、ノート、です……」
「素晴らしい。そう、その通りだラシェル嬢。ここには貴女の夢が詰まっているんだ」

 セレスティンは頷きを返し、ノートを机上に置いて静かに開きました。

 ――そこに書かれているのは、孤児の将来についてのもの――。

 孤児は孤児院で保護され愛情を持って育てられますが、彼ら彼女らが孤児院に居られるのは成人するまで――18までと、決まっています。そのため18歳となった孤児は自立しなければなりませんが、皆が皆人並みに生きられるわけではありません。

 孤児を理由に心無い言葉を浴び、傷付いてしまう者。これまであった居場所がなくなるという喪失感によって、生きる目標を失ってしまう者。社会に出てより多くの『恵まれている人間』を見てしまった結果、『不公平だ!』と嘆き怒り、犯罪行為に走ってしまう者。などなど。

『孤児』という過去により人生が悪い方へと進んでしまう者が一定数おり、しかしながら収容人数などの都合で、孤児院に留まることはできません。それに関して王族も貴族も、特にアクションを起こすことはありません。
 そのため以前からそんな悲劇を防ぎたいと考えていたラシェルは、

((元孤児の方々が、孤児院を卒業したあとも幸せに暮らせるような環境を……。私は作ります……!))

 孤児院出身者のみが働けて、共同生活を送れる場所。第二の孤児院のような存在を、元孤児たちの受け皿を作る。
 今から3年前にそう決意し、その日から様々な行動を実行。そうしている間に思いと想いはますます強くなり、いつしかソレはラシェルの『夢』となっていたのでした。

 そして――

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