心を失ってしまった令嬢は、心優しい精霊王に愛される

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
16 / 52

第7話 同時刻 ターザッカル邸内では 俯瞰視点(2)

しおりを挟む
「? あなた、どうしたの?」
「お父様? テーブルに、何かあるの?」
「………………な、なあ、お前達。札束の数が、減っていないか?」

 ニコニコ笑顔でナイフとフォークを手にしていた、父セゼール。彼は両手に握っていたカトラリーを置き、悪趣味に広げていた札束を見回しました。

「さっきまでは、もっとあったような気がするんだが……。お前達は……どう、思う?」
「もう、あなたったら。減っているはずがないでしょう?」
「まだ一度も使っていないんだもの。お父様、それは気のせいよ」
「そ、そうだよな……。しかし…………明らかに、減っているような………………。す、すまないがエミリとリヴィアも、カウントを手伝ってくれ」

 そんなはずはないけれど、そう感じる。そこでセゼールは数え間違いがなくなるよう三等分して、それぞれ数えていきます。

「1、2、3、4、5…………………………33。ちゃんとあるわよ、あなた」
「わたしのところも、束はちゃんと33ある。やっぱりお父様の勘違いで――お父様、どうして急に震え始めたの? ……まさか……」
「………………ああ、そのまさかだ……。お前たち2人で、66。だから34ないといけないのに、こちらには29しかない……。5つも減っているんだ!!」

 ついさっき自分達が丁寧に100つの束を並べていて、それ以降自分たち以外誰も食卓には近づいていない。つまりそれは本来、決してあり得ないこと。
 そのためセゼールの顔は瞬く間に青ざめてゆき、ソレはエミリとリヴィアにも伝播してしまいました。

「どうなってるの!? かっ、数え間違いでしょっ? おっ、お父様もう一回数えてみてっっ! 落ち着いてゆっくり数え直してみてっ!」
「きっ、きっと勘違いよっ! そんなこと起きるはずないものっ! さ、さああなた! もう一度っ!」
「う、うむ。い、1、2、3、4、5,6…………」

 額にたっぷり浮かんだ脂汗を拭い、今一度確認しています。
 さっき以上に、一つ一つ丁寧に。妻と娘に見守られながら、慎重にカウントしていって――

「にっ、24だって!? さっきより更に5つ減っただって!?」

 その結果セゼールは先ほど以上の、激しい動揺に襲われることとなりました。
 ですがそれはまだ、衝撃の始まりに過ぎませんでした。この絶叫を切っ掛けとして、更なる異変が発生し――

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。

田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。 ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。 私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。 王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

処理中です...