13 / 52
第6話 人間界にて~1つめの思い出の場所~ 俯瞰視点(2)
しおりを挟む
「ラシェル嬢。今の貴女は、『理解』をすることはできないだろう。けれどそれでも、『感じる』ことはできるはずだ」
ゆっくりと、穏やかに、優しく。セレスティンは真っすぐ碧眼を見つめながら、言の葉を紡いでゆきます。
「……………………………………」
「俺は貴女の記憶を共有して、知っている。彼らがどれほどに大切な存在であるかを。叶うならばこの先も彼らと過ごしたかったと、強く思っていたことを」
ラシェルにとって3匹は、親友であり弟と妹のような存在。そのため昨日3匹に会いに行き、
『ごめんね、みんな。そのね……。私はとある方との婚約が決まって、もうすぐ隣国に行かなくちゃいけないの。残念だけど、もう会えないの』
『『『チチチチチ…………』』』
『急なお別れになって、ごめんなさい。……でもね。離れていても、心は一緒だよ。私は絶対に、みんなのことを忘れないよっ』
嘘を吐いて、さよならを行っていたのでした。
外出から帰った直後に起きた、家族によるあの悲劇。その前には、こういったことが起きていたのでした。
「ラシェル嬢。もう会えないと思っていた弟や妹が、目の前にいる。これからは好きなだけ一緒に過ごせるんだ」
「……………………………………」
「共に歌を歌ったり、共に散歩をしたり、共に木陰で昼寝をしたり。貴女が大切に思い、これからもずっと続けていたいと強く思っていた行動を、思う存分取れるんだ」
「……………………………………」
「ラシェル嬢。今貴女が感じているものを、言葉にして俺に教えて欲しい。……大切な人と様々な時間を共有し、あの頃のように笑い合いたい。イエスかノー、どちらだ?」
「………………………………」
ラシェルは引き続き、淡々と正面を見つめているだけ。その質問に対する返事はありません。
ですがセレスティンは諦めることなく問い続け、そっと斜め右と左を一瞥し――
「「「チチチチチチッ! チチチチチチチッ!」」」
彼女の『弟』と『妹』の力も借り、繰り返し問いかけます。
何度失敗しても、継続。セレスティンははっきりとした口調で、力強く質問を繰り返し――
「ラシェル嬢。今貴女が感じているものを、言葉にして俺に教えて欲しい。……大切な人と様々な時間を共有し、あの頃のように笑い合いたい。イエスかノー、どちらだ?」
こういったことが、21回繰り返された時でした。
「………………………………いえす…………」
不意に、ぽつりと。小さな小さな声が、ラシェルの口から零れ落ちたのでした。
ゆっくりと、穏やかに、優しく。セレスティンは真っすぐ碧眼を見つめながら、言の葉を紡いでゆきます。
「……………………………………」
「俺は貴女の記憶を共有して、知っている。彼らがどれほどに大切な存在であるかを。叶うならばこの先も彼らと過ごしたかったと、強く思っていたことを」
ラシェルにとって3匹は、親友であり弟と妹のような存在。そのため昨日3匹に会いに行き、
『ごめんね、みんな。そのね……。私はとある方との婚約が決まって、もうすぐ隣国に行かなくちゃいけないの。残念だけど、もう会えないの』
『『『チチチチチ…………』』』
『急なお別れになって、ごめんなさい。……でもね。離れていても、心は一緒だよ。私は絶対に、みんなのことを忘れないよっ』
嘘を吐いて、さよならを行っていたのでした。
外出から帰った直後に起きた、家族によるあの悲劇。その前には、こういったことが起きていたのでした。
「ラシェル嬢。もう会えないと思っていた弟や妹が、目の前にいる。これからは好きなだけ一緒に過ごせるんだ」
「……………………………………」
「共に歌を歌ったり、共に散歩をしたり、共に木陰で昼寝をしたり。貴女が大切に思い、これからもずっと続けていたいと強く思っていた行動を、思う存分取れるんだ」
「……………………………………」
「ラシェル嬢。今貴女が感じているものを、言葉にして俺に教えて欲しい。……大切な人と様々な時間を共有し、あの頃のように笑い合いたい。イエスかノー、どちらだ?」
「………………………………」
ラシェルは引き続き、淡々と正面を見つめているだけ。その質問に対する返事はありません。
ですがセレスティンは諦めることなく問い続け、そっと斜め右と左を一瞥し――
「「「チチチチチチッ! チチチチチチチッ!」」」
彼女の『弟』と『妹』の力も借り、繰り返し問いかけます。
何度失敗しても、継続。セレスティンははっきりとした口調で、力強く質問を繰り返し――
「ラシェル嬢。今貴女が感じているものを、言葉にして俺に教えて欲しい。……大切な人と様々な時間を共有し、あの頃のように笑い合いたい。イエスかノー、どちらだ?」
こういったことが、21回繰り返された時でした。
「………………………………いえす…………」
不意に、ぽつりと。小さな小さな声が、ラシェルの口から零れ落ちたのでした。
2
お気に入りに追加
1,336
あなたにおすすめの小説

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。
田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。
ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。
私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。
王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!

「これは私ですが、そちらは私ではありません」
イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。
その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。
「婚約破棄だ!」
と。
その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。
マリアの返事は…。
前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる