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第3話 左の手 俯瞰視点
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「ラシェル・ターザッカル。非常事態とはいえ、非礼な行動には変わりない。どうか許してもらいたい」
セレスティンは光が消えている瞳に謝罪を行い、それが済むと再び――ずぷりと、彼の手がラシェルの身体に入り込んでゆきました。そうして体内に入った手は『白』となった球体を再度掴み、しかしながら今回はそっとではなく鷲掴みにします。
そうすることで彼の五指は、球体に深く深く沈み込み――
「……………………あった、ここだ。捉えた」
球体の中にある、二回りほど小さな真白の球体。『魂』に触れました。
「魂への干渉は、繊細な動作を要求される。万が一失敗すれば、魂が崩壊して彼女は死んでしまうだろう。ゴーチェ、感情を決して乱さないようにな」
「う、うんっ。分かりましたっ!」
精霊は感情の変化によって、無意識的に精霊の力が放出されてしまいます。そのためセレスティンは注意の喚起を行い、
「根源に刻まれし物よ、我にその姿を見せよ」
その言葉を合図として、ラシェルからセレスティンへと眩い光が流れ込んできました。
これはラシェルの魂の中にあった、『ラシェル・ターザッカル』の記憶。
魂は生物を構成する、基盤たるもの。それ故に誕生してからの『活動記録』が常に刻まれており、たとえ心を失っていたとしても、精霊王ならば読み取ることができるのです。
「……………………………………記憶の閲覧が、完了した。これで下準備はお仕舞だ」
「お、お疲れ様ですセレ様っ。と、ところでリヴィアちゃん――じゃなかった。ラシェルちゃんの記憶を知って、どうするんですか?」
「…………………………」
「?? せ、セレ様? 聞こえてますか? ボクの声、聞こえてますか?」
「……ああすまない、ちゃんと聞こえている。これから彼女を連れて『ラシェル・ターザッカルにとって重要な場所』を全て訪れ、思い出の力を用いて彼女の記憶と心を甦らせるのだよ」
心は真っ白になってしまっていますが、魂には『ラシェル・ターザッカル』の存在が刻まれています。そしてソレは、心と魂の間にある『壁』が消えた状態で――今のこの状態で、魂に『生きたい』と強く感じさせることができれば、自身にまつわる刺激を強く受ければ、記録が心に流れ込んで『ラシェル・ターザッカル』を取り戻せる可能性があったのです。
「っ! そんなコトができちゃうんですねっ! やったぁ――ぁ、でも……。セレ様は、難しいお顔をされていたから……」
「成功となる確率は、非常に低い。なにせ理屈で可能というだけで、体現したケースは一つとしてないのだからな」
なので、『可能性がある』。できない可能性の方が遥かにある、達成は非常に困難なものでした。
「だが俺は、必ず成功させてみせる。……彼女の中にある、あの記憶を見てしまったからな」
「??? あの記憶? それって……?」
「…………無断で覗き見たものだが、お前だけには話しておいてもいいだろう。彼女、ラシェル・ターザッカルは――」
セレスティンは光が消えている瞳に謝罪を行い、それが済むと再び――ずぷりと、彼の手がラシェルの身体に入り込んでゆきました。そうして体内に入った手は『白』となった球体を再度掴み、しかしながら今回はそっとではなく鷲掴みにします。
そうすることで彼の五指は、球体に深く深く沈み込み――
「……………………あった、ここだ。捉えた」
球体の中にある、二回りほど小さな真白の球体。『魂』に触れました。
「魂への干渉は、繊細な動作を要求される。万が一失敗すれば、魂が崩壊して彼女は死んでしまうだろう。ゴーチェ、感情を決して乱さないようにな」
「う、うんっ。分かりましたっ!」
精霊は感情の変化によって、無意識的に精霊の力が放出されてしまいます。そのためセレスティンは注意の喚起を行い、
「根源に刻まれし物よ、我にその姿を見せよ」
その言葉を合図として、ラシェルからセレスティンへと眩い光が流れ込んできました。
これはラシェルの魂の中にあった、『ラシェル・ターザッカル』の記憶。
魂は生物を構成する、基盤たるもの。それ故に誕生してからの『活動記録』が常に刻まれており、たとえ心を失っていたとしても、精霊王ならば読み取ることができるのです。
「……………………………………記憶の閲覧が、完了した。これで下準備はお仕舞だ」
「お、お疲れ様ですセレ様っ。と、ところでリヴィアちゃん――じゃなかった。ラシェルちゃんの記憶を知って、どうするんですか?」
「…………………………」
「?? せ、セレ様? 聞こえてますか? ボクの声、聞こえてますか?」
「……ああすまない、ちゃんと聞こえている。これから彼女を連れて『ラシェル・ターザッカルにとって重要な場所』を全て訪れ、思い出の力を用いて彼女の記憶と心を甦らせるのだよ」
心は真っ白になってしまっていますが、魂には『ラシェル・ターザッカル』の存在が刻まれています。そしてソレは、心と魂の間にある『壁』が消えた状態で――今のこの状態で、魂に『生きたい』と強く感じさせることができれば、自身にまつわる刺激を強く受ければ、記録が心に流れ込んで『ラシェル・ターザッカル』を取り戻せる可能性があったのです。
「っ! そんなコトができちゃうんですねっ! やったぁ――ぁ、でも……。セレ様は、難しいお顔をされていたから……」
「成功となる確率は、非常に低い。なにせ理屈で可能というだけで、体現したケースは一つとしてないのだからな」
なので、『可能性がある』。できない可能性の方が遥かにある、達成は非常に困難なものでした。
「だが俺は、必ず成功させてみせる。……彼女の中にある、あの記憶を見てしまったからな」
「??? あの記憶? それって……?」
「…………無断で覗き見たものだが、お前だけには話しておいてもいいだろう。彼女、ラシェル・ターザッカルは――」
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