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第2話 事情の把握と、違和感 俯瞰視点(1)
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「………………なるほど。状況を把握した」
ゴーチェがラシェルを連れてやって来てから、およそ3分後。側近から事情の説明を受けた精霊王セレスティンは、玉座にて冷静に顎を引きました。
「セレ様……。今まで、逆は……。精霊界から人間界への移動は、前例がありませんよね? でっ、でもっ。大丈夫だよねっ? リヴィアちゃんをちゃんと、家族のトコロに戻してあげられますよねっ?」
「ああ、問題ない。それは試した王が居ないだけの、造作もないもの。ゲートを一度でも潜った経験のある人間なら、俺の力を足せばいつでも簡単に戻せる」
「よかったぁ。よかったねリヴィアちゃん――リヴィアちゃん? 何か言いたいコトがありそうだね? どうしたの?」
「……精霊王セレスティン様。発言の許可をいただけますでしょうか?」
「貴女は客人であり、そういったものは不要だ。遠慮なく、好きなタイミングで喋ってもらって構わない」
セレスティンがそう返すと、「痛み入ります」――とラシェルはカーテシーを行い、ブルーの瞳がセレスティンへと注がれました。
「先ほどゴーチェ様は、生贄が廃止されたと仰りました。そちらは紛れもない事実なのでしょうか……?」
「ああ、それは事実。間違いなくその取り決めはなくなっている。俺がひと月前、忌々しい行為に終止符を打ったのでね」
生贄に捧げられた者を喰らえば――夥しい量の恐怖が刻まれた異なる世界の異性を喰らえば、より強大な力を手に入れられる。一枚岩ではない精霊界で、己の地位を確固たるものにできる。
そのため100年に1度、人間界と精霊界が繋がるタイミングで――精霊と違い本来行き来できない人間が移動できるようになるタイミングで、生贄を呼んでいたのです。国の加護という、甘い誘惑を使って。
「俺は、誰かの生涯を奪ってまで強い力を得たいとは思わない。それに地位を確固たるものにする方法は、他にいくらでもある」
「鍛錬によって力を高めたり、知略を巡らせたり。新精霊王様はそういったやり方で欠けた部分を補って、なんとっ! 歴代精霊王でも力ずくじゃないとできなかった敵対勢力の懐柔に成功して、精霊界を一枚岩にしちゃってるんだよっ!」
次期精霊王は、集められた精霊たち――優秀な精霊の中から前精霊王が後継者を選び決まりますが、その後新精霊王が何かしらの形で急死した場合は、他の候補者の中からランダムで新たな精霊王が選ばれるようになります。それ故に多くの者が常に座を狙っているのですが、セレスティンは飴と鞭を駆使。その時に備えて用意していた策を使い、様々なやり方で敵意をなくさせ――味方を増やし、全員を仲間としていたのです。
「だからよかったね~、リヴィアちゃんっ。怖いコトなんてなくって、すぐ家族のトコロに戻れるんだよ!」
「……………………そう、なのですね。でしたらなぜ……。陛下は生贄の選定をされたのでしょうか……? これからわたしは、どうすればよいのでしょうか……?」
「それらはまだ、俺にも分からない。ただ――その件に関して、一つだけ分かっていることが俺にはある」
淡々と首を振っていたセレスティンは、そう告げながら静かに立ち上がります。そうして玉座から離れた彼は、ラシェルのもとに近づいていって――
ゴーチェがラシェルを連れてやって来てから、およそ3分後。側近から事情の説明を受けた精霊王セレスティンは、玉座にて冷静に顎を引きました。
「セレ様……。今まで、逆は……。精霊界から人間界への移動は、前例がありませんよね? でっ、でもっ。大丈夫だよねっ? リヴィアちゃんをちゃんと、家族のトコロに戻してあげられますよねっ?」
「ああ、問題ない。それは試した王が居ないだけの、造作もないもの。ゲートを一度でも潜った経験のある人間なら、俺の力を足せばいつでも簡単に戻せる」
「よかったぁ。よかったねリヴィアちゃん――リヴィアちゃん? 何か言いたいコトがありそうだね? どうしたの?」
「……精霊王セレスティン様。発言の許可をいただけますでしょうか?」
「貴女は客人であり、そういったものは不要だ。遠慮なく、好きなタイミングで喋ってもらって構わない」
セレスティンがそう返すと、「痛み入ります」――とラシェルはカーテシーを行い、ブルーの瞳がセレスティンへと注がれました。
「先ほどゴーチェ様は、生贄が廃止されたと仰りました。そちらは紛れもない事実なのでしょうか……?」
「ああ、それは事実。間違いなくその取り決めはなくなっている。俺がひと月前、忌々しい行為に終止符を打ったのでね」
生贄に捧げられた者を喰らえば――夥しい量の恐怖が刻まれた異なる世界の異性を喰らえば、より強大な力を手に入れられる。一枚岩ではない精霊界で、己の地位を確固たるものにできる。
そのため100年に1度、人間界と精霊界が繋がるタイミングで――精霊と違い本来行き来できない人間が移動できるようになるタイミングで、生贄を呼んでいたのです。国の加護という、甘い誘惑を使って。
「俺は、誰かの生涯を奪ってまで強い力を得たいとは思わない。それに地位を確固たるものにする方法は、他にいくらでもある」
「鍛錬によって力を高めたり、知略を巡らせたり。新精霊王様はそういったやり方で欠けた部分を補って、なんとっ! 歴代精霊王でも力ずくじゃないとできなかった敵対勢力の懐柔に成功して、精霊界を一枚岩にしちゃってるんだよっ!」
次期精霊王は、集められた精霊たち――優秀な精霊の中から前精霊王が後継者を選び決まりますが、その後新精霊王が何かしらの形で急死した場合は、他の候補者の中からランダムで新たな精霊王が選ばれるようになります。それ故に多くの者が常に座を狙っているのですが、セレスティンは飴と鞭を駆使。その時に備えて用意していた策を使い、様々なやり方で敵意をなくさせ――味方を増やし、全員を仲間としていたのです。
「だからよかったね~、リヴィアちゃんっ。怖いコトなんてなくって、すぐ家族のトコロに戻れるんだよ!」
「……………………そう、なのですね。でしたらなぜ……。陛下は生贄の選定をされたのでしょうか……? これからわたしは、どうすればよいのでしょうか……?」
「それらはまだ、俺にも分からない。ただ――その件に関して、一つだけ分かっていることが俺にはある」
淡々と首を振っていたセレスティンは、そう告げながら静かに立ち上がります。そうして玉座から離れた彼は、ラシェルのもとに近づいていって――
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