心を失ってしまった令嬢は、心優しい精霊王に愛される

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
2 / 52

第1話 精霊界に着いた人形令嬢は 俯瞰視点(1)

しおりを挟む
「………………ここが、精霊の住む精霊界。精霊王様は、どこかしら……?」

 青ではなく七色の空の下にある、金色や銀色の木や草花が広がる森。そんな異様な場所に独り転移しても、ラシェルは動揺一つしません。
 姉リヴィアとして100年に1度の生贄となり、家族であり祖国の平穏を維持するために。ラシェルは微塵も怯えることなく歩き出し、目的の存在を探し始めます。

「…………生贄を待ってくださっていると、思っていたのだけど……。違う、みたいね……。誰かいらっしゃらないかしら……?」

 周囲をキョロキョロと見回しながら進み、真っすぐ続く道を前進してゆきます。そうして人間にとっては異様に映る景色の中を、平然と1分ほど歩いた頃でした。不意にラシェルの目の前に30センチほどの光の球体が現れ、それはやがて身長140センチくらいの人型へと姿を変えました。

「うわっ、セレさ――じゃなかった、精霊王様の言った通りだ! ホントに人が来ちゃってるよっ!」
「精霊王……っ。貴方様は、精霊王様の関係者様なのでしょうか?」

 シャツと長ズボンのような服を着た、12歳前後に見えるツンツン髪の少年。そんな彼が口にした言葉を聞き、ラシェルの声は自然とワントーン大きくなりました。

「え? う、うん、そうだよ。ボクは精霊王の補佐を務める、ゴーチェっていうんだ。モチロン精霊で、そういう君の名前は?」
「わたしはニッケリーズに属するターザッカル伯爵家の長女、リヴィアと申します。齢(よわい)は18でございます」

 目の前にいるのは、目的の存在と深く関わる者。そのためラシェルはカーテシーを行い、丁寧に自己の紹介を行いました。

「ふ~ん、ターザッカル家のリヴィアちゃんね。……ん~? んん~? リヴィアちゃんっていうの? なんか違うような気がするような……?」
「??? ゴーチェ様。わたしは、正真正銘のリヴィアでございますよ?」

 黒魔術の効果により、ラシェルは自分を双子の姉リヴィアと思い込んでいます。それによって迷いなく即答を行い、堂々とした反応によってゴーチェは信じてしまいました。

「そ、そっか、ヘンなコト聞いてゴメンネ? ところでリヴィアちゃん。ここには何しに来たの? うっかり迷い込んじゃった?」
「え? いえ。わたしはご要望に従い、献上に参りました」
「……? ご要望? 献上? 誰の? なにを?」
「精霊王様による、生贄の御所望でございます。今回の生贄はわたしリヴィア・ターザッカルと決まり、この心身を捧げに参りました」

 加護を得るための、100年に1度の取り決め。それを果たすためだと説明を行い、そうすれば――。首を傾げていたゴーチェの目は丸くなり、ラシェルにとってあまりにも予想外な大声が飛び出したのでした。

「生贄!? そんなの求めていないよ!? だって生贄のシステムは、現精霊王様が廃止にしたんだからっ!」

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

異世界転移したよ!

八田若忠
ファンタジー
日々鉄工所で働く中年男が地球の神様が企てた事故であっけなく死亡する。 主人公の死の真相は「軟弱者が嫌いだから」と神様が明かすが、地球の神様はパンチパーマで恐ろしい顔つきだったので、あっさりと了承する主人公。 「軟弱者」と罵られた原因である魔法を自由に行使する事が出来る世界にリストラされた主人公が、ここぞとばかりに魔法を使いまくるかと思えば、そこそこ平和でお人好しばかりが住むエンガルの町に流れ着いたばかりに、温泉を掘る程度でしか活躍出来ないばかりか、腕力に物を言わせる事に長けたドワーフの三姉妹が押しかけ女房になってしまったので、益々活躍の場が無くなりさあ大変。 基本三人の奥さんが荒事を片付けている間、後ろから主人公が応援する御近所大冒険物語。 この度アルファポリス様主催の第8回ファンタジー小説大賞にて特別賞を頂き、アルファポリス様から書籍化しました。

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。

田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。 ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。 私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。 王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

処理中です...