心を失ってしまった令嬢は、心優しい精霊王に愛される

柚木ゆず

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プロローグ 操り人形となってしまった令嬢 俯瞰視点

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「リヴィア……。何もできない我々を、許しておくれ……」
「リヴィア……。ごめんなさいね……」
「お姉様……。おねえさま…………っ」
「セゼールお父様、エミリお母様、ラシェル、顔を上げてください。わたしは今、とっても幸せよ。だってわたし一人の犠牲で、祖国の平穏を維持できるんだもの」

 この国『ニッケリーズ』の中央にある、『エプリタニアの森』。その更に中央にある、『精霊の祭壇』と呼ばれる場所。
 その前では家族である3人が涙を流し、ターザッカル伯爵家の次女ラシェル・・・・が明るく微笑んでいました。

「っ、リヴィア……!」
「リヴィア……っ」
「っっ。おねえ、さま……っ」

 長女リヴィアと呼ばれ、当たり前のように返事をする次女ラシェル。ラシェルに対してリヴィアと呼ぶ、父セゼール、母エミリ、長女リヴィア。
 なぜ、こんな奇妙なことが起きているのか。その理由は、今から1か月前に起きた出来事にありました。

『なんだって!? 生贄は、リヴィア!?』

 この国ニッケリーズでは古より、『精霊王からの加護』を享受する対価として100年に1度貴族令嬢の中から1人『贄』を捧げる仕来りがありました。そのため丁度100年目である今日のために名誉の抽選・・・・・が行われ、それによってリヴィア・ターザッカルが選ばれていたのでした。

 しかし――。

『生贄って、精霊王が済む世界に行かなくちゃいけないんでしょ!? そこで食べられて死んでしまうんでしょ!? 嫌っ! 生贄になんてなりたくないわ!! なんとかしてお父様お母様っ!!』
『もちろんだとも! リヴィアは絶対に、贄にはさせん!!』
『ええっ!! どんな手を使ってでも阻止するわ!!』

 父セゼールと母エミリは、物分かりがいい・・・・・・・長女を溺愛していました。そのため愛娘が犠牲にならなくて済む方法を探し始め、やがてもう一人の娘――双子の妹であるラシェルが、目をつけられてしまいました。

『……多少の違いは、あるが……。化粧などをすれば、誤魔化せる範疇だな』
『……そうね、あなた。生贄はとにかく、用意をすればいいんですもの。二人を入れ替えて、この子を代わりにしましょ』

 次女ラシェルは長女と違い、物分かりの悪い子ども・・・・・・・・・・。様々な不正や汚職に苦言を呈し、領民の幸せを最優先にするべきなどと愚かで鬱陶しい発言を・・・・・・・・・・繰り返していました。そのため変装をさせて差し出すと迷わず決まり、ですが、3人には『ラシェルは素直に従わない』という考えがありました。
 そのため強制できる手段を昼夜問わず必死になって探し始め、皮肉なことに前夜のことでした。隣国にて強力な洗脳効果のある黒魔術を発見し、

『お父、さま……。お母、さま……。お姉、さま……。これは、い、ったい……』
『決まってるだろう、この子を守るためだ。……ラシェル、お前には犠牲になってもらうぞ』

 睡眠薬を飲ませたあと魔法陣を描いた椅子に縛り付け、3人で呪文の詠唱を行い、13種類の粉末で作った丸薬を呑み込ませる。そうした結果ラシェルは家族3人の思い通りに動く、忠実な操り人形となってしまったのでした。

「…………どうやら、時間のようですね。セゼールお父様、エミリお母様、ラシェル。行ってきます」

 そのためラシェルは3人が望む言葉を発し、号泣する――真似をしている3人に微笑み、体勢を180度変更。国王陛下や司祭などから感謝や謝罪を受けながら真っすぐ進み、祭壇へとのぼりました。

「リヴィアっっ!」「リヴィアっっ!」「お姉様っっ!!」
「お父様、お母様、ラシェル。さようなら。わたしのことは忘れて、楽しく幸せに生きて頂戴ね。……それがわたしの、なによりの願いです」

 100年目の正午に生贄がのぼると、祭壇は精霊界への転送装置となります。なので言下祭壇は七色に眩く発光し、光が収まると――。

 長女リヴィアこと次女ラシェルの姿は、なくなっていたのでした。

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