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第13話 ロバートの一年間 俯瞰視点

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「……ち、父上……。ダリオ、に、兄さん。は、ははは。オレはヘンな聞き間違いをしてしまったみたいだ。もう一回、ちゃんと言ってください」

 あちこちでシブリアンとクロエの写真がばら撒かれてから、ちょうど半年が経ったころでした。屋敷の一階部にある執務室に呼ばれたロバートは、父と兄を交互に見つめていました。

「酷い聞き間違いをしてしまいましたよ。もう一度お願いしま――」
「ロバートよ、お前は聞き間違いなどしてはおらんよ」
「今聞いたことは、どこにも間違いはない。お前の追放がさっき、正式に決まった」

 俺が追放されるはずがない――。そんなロバートの考えは、一瞬にして木っ端みじんとなってしまったのでした。

「つ、追放……!? 理由は……!? 理由はなんなのですか……!?」
「理由か? 理由は次期当主殿が希望したからだ」
「次期当主殿……ダリオ兄さんが!? なぜだっ!? 兄さんどうして!?」
従者ニコラスが教えてくれたよ。お前は僕を蹴落とし自分が登るために、色々と暗躍していたそうじゃないか。……そんなことを考える人間が居たら落ち着かないからね、悪影響を及ぼす輩を排除するんだよ」

 というのは、半分嘘。
 ロバートがそうであったように、双子に兄ダリオも弟を忌々しく思っていました。

 ――これまで邪魔をしてきた大嫌いな人間に、仕置きをしてやる――。

 大きな力であり父親の後ろ盾を得たダリオはずっとそんなことを考えていて、ようやくソレに必要な根回しが全て済んでいたのでした。

「大事な兄弟が居なくなるのは寂しいことだけど、仕方がない。さようならだ」
「父上!! コイツは嘘を吐いている!! 単にオレを攻撃したいだけなんです!! こんなことを許してはいけま――」
「お前はわたしを平気で騙すような人間だ。お前の言うことなど聞かんよ」

 エタンはあの件で、今なお激しい怒りを抱いていました。
 ですので味方にはなってくれず、いくら食い下がっても無駄。ロバートはあっという間に全てを失ってしまい、路頭に迷う羽目になったのでした。

「……くそ……! くそ……! くそぉぉぉぉぉぉ……!!」

 全てを失ってしまったのなら、自分で働かないと生きていけない。けれどダリオ達がそこでも暗躍をしていて、知り合いを頼ることなどができなくなっていた――日雇いでしか、働けなくなってしまっていました。
 そのためロバートは、よりよい環境を求めて彷徨い続け――

「……ここだ……。ここなら仕事もたくさんあって、少しは楽に暮らせる……」

 ――『ランティナーズ』へと、流れ着いていたのでした。


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